歌舞伎『近江源氏先陣館―盛綱陣屋―』『蝙蝠の安さん』国立劇場 大劇場

『近江源氏先陣館―盛綱陣屋―』『蝙蝠の安さん』国立劇場 大劇場
国立劇場の令和元年12月歌舞伎公演を拝見しました。まずは『近江源氏先陣館―盛綱陣屋―』、2019年3月に片岡仁左衛門さんの佐々木盛綱を見たのですが、記憶薄いです。。。

配役
佐々木三郎兵衛盛綱:松本白鸚(高麗屋)
高綱妻篝火:中村魁春(加賀屋)
信楽太郎:松本幸四郎(高麗屋)
盛綱妻早瀬:市川高麗蔵(高麗屋)
後室微妙:上村吉弥(美吉屋)
竹下孫八:松本錦吾(高麗屋)
伊吹藤太:市川猿弥(澤瀉屋)
小四郎:松本幸一郎(高麗屋)
和田兵衛秀盛:坂東彌十郎(大和屋)
北條時政:坂東楽善(音羽屋)

『風の谷のナウシカ』の後だったので、古典的演目は心の底からホッとします。海外から帰国した後にいただくお味噌汁のよう。やっぱり松本白鸚さんの台詞回しとか高綱の策略がわかった時のリアクションとかあまり好きではないが、この演目の主役は微妙、小四郎、そして登場しない高綱ではないでしょうか。その中でも子役の小四郎の演技が最重要かと思うのですが、台詞のリズムも良くお上手でした。凄い。御注進の男前でキレのある幸四郎さんの「信楽太郎」とほんわかと可愛らしい猿弥さんの「伊吹藤太」の対比も素敵(小さい傘を足で引っ掛ける部分は失敗失敗)。最近の幸四郎さん好感触。坂東彌十郎さんの和田兵衛秀盛の強者振り、体が大きいってそれだけで武器。坂東楽善さんの北條時政も素晴らしい。ほとんど喋らないのですが、それがむしろ怖過ぎです。幸一郎君の頑張りか、全体のリズムも良く最後まで飽きずに楽しめました!

続いてはチャールズ・チャップリンの映画『街の灯 シティーライト』が原作の『蝙蝠の安さん』、大好きな映画なだけに期待と不安が。というか今月、ナウシカとか白雪姫とか期待と不安をいだかせる演目多し。そんな中でも安さん!断トツに良かったです!

配役
蝙蝠の安さん:松本幸四郎(高麗屋)
花売り娘お花:坂東新悟(大和屋)
上総屋新兵衛:市川猿弥(澤瀉屋)
井筒屋又三郎:大谷廣太郎
海松杭の松さん:澤村宗之助
お花の母おさき:上村吉弥(美吉屋)
大家勘兵衛:大谷友右衛門(明石屋)

除幕「両国大仏興行の場」から、大きな大仏の両手が登場、左手の上で眠りこける安さん、蝙蝠のように飛ぶ安さん、最終的には鼻の穴から飛び出す安さん、掴みはオッケー。所変わって「大川端の場」、せりの上に設えた橋の下を船がくぐる演出なんか歌舞伎らしくて素敵。大詰前以外は場面転換も非常にスムーズで、安易に幕を引かないのも歌舞伎らしくてとても好印象。驚いたのは、考えれば当たり前かもしれませんが、サイレント映画のチャップリン的な動きと義太夫の相性の良さ!これは凄い!安さんと新兵衛(寝ると記憶が無くなる病)が川に落ちるシーン(いっぱい魚と海老取れました)とか酔っ払うシーンとかはアドリブ盛り沢山。友人という設定ですが、幸四郎さんも猿弥さんも本当仲良さそう。口から旗が出たり、お箸1本でとっくり持ち上げたり、幸四郎さんへの「(着物を投げて着る際)上手いか上手くないのかよくわからない!」とか「(二人酒宴の際)なんでお前はそんなに芸が細かいんだ!」とか、種々の愛のあるツッコミが笑える。飲み込んだ笛の音で犬二匹と一緒に踊るシーンはちょっとインド映画を思い起こしました。釜の帽子をかぶって、棒(ステッキ)を持って「まるで、あちゃらの国の喜劇王だなぁ」のシーンはちょっとした感動があります。

お花の目の治療費5両を頑張って作ろうとするシーンも面白い。浅間山のようなお灸に相撲の飛び入り、蚊細岩(かぼそいわ)、八瀬ヶ嶽(やせがたけ)とか四股名も楽しい。千秋楽で初めて台本通りの四股名を使ったそうです。そしてヒロインお花役の新悟君が良かった。あの全く無理を感じさせない声色は本当素敵。序盤の幸薄感も良かった。大詰「浅草奥山の茶店の場」では中盤に喧嘩のどたばたがあるのですが、それが後のしっとりとしたシーンを引き立てる構成もお見事。安さんの「恩は掛けるものじゃねぇ。恩を着るものだ。」という台詞も最高。最後の見つめ合うシーンも最高。3階席だったので双眼鏡で見ていたのですが、もっと近くで見ていたら確実に涙腺崩壊でございました。

完成度がとても高い新作歌舞伎でしたので、1931年の初演以来88年ぶりだそうですが、その時はどういう芝居だったのかとても気になります。あと音楽とか安さんの紙衣(かみご)風の映画タイトル?の書いた幕とか、決して派手ではないですがセンスがとても良いと感じました。素晴らしい。他の新作、白雪姫とか雪之丞とか白雪姫とかちょっと見習ってもらいた岩。今年最後の歌舞伎が見る人の心に温かさを灯す『蝙蝠の安さん』で幸せでした!

※追記
後日原作映画『街の灯 シティーライト』を再見しました。2年振りくらいでしたが、ディテール忘れてます。。。見直してみると『蝙蝠の安さん』の内容はとても忠実。冒頭のシーンも川に落ちるシーンなどとても似ています。歌舞伎では採用されていないですが路上エレベーターのシーンなんかも構成が上手過ぎる。ボクシングが相撲に置き換えられていますが、このボクシングの動きが秀逸!爆笑!無言でこんなに笑わせる人はいないでしょう。無言だからこそ、雑味なく旨味たっぷりに煮詰められた究極の笑いという印象。チャップリンの映画を見ると現在の日本のお笑いシーンに多大な影響を及ぼしているのがわかります。最高。そしてラスト、87分のうち、84分くらいまでは泣かせる要素はほぼ無いのですが、あのラスト!映画史上最強クラス!今回も号泣してしまいました。映画でも本でも演劇でもやはり何度見ても面白い作品は素晴らしいです。古典最高!!

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