坂東玉三郎『日本橋 月イチ歌舞伎』東劇


2012年に日生劇場で上演された坂東玉三郎特別公演『日本橋』の映像化。公演期間中の休演日、この映像のために撮影されたものだそうです。

『日本橋』は泉鏡花が大正三年に小説として発表し、のちに自ら戯曲化された新派古典劇の代表作。1956年(昭和31年)に公開された市川崑監督の映画『日本橋』も拝見しておりますが、もともと戯曲であるからか、今回の舞台作品の方が、物語もわかりやすく、情感や個々の心理描写も豊かで完成度が高いように思いました。

配役
稲葉家お孝:坂東玉三郎
瀧の家清葉:高橋惠子
葛木晋三:松田悟志
笠原信八郎:藤堂新二
雛妓お千世:斎藤菜月
五十嵐伝吾:永島敏行

初めて知った方でしたが(既知は玉三郎と永島敏行のみ)、上品で清楚な芸妓清葉役の高橋惠子さんがとてもよかった。うるうるとした大きな目が印象的で、慈愛溢れる雰囲気がよく出ていて、勝気で感情的な性格のお孝の対比がよく、どろどろした感情が渦巻くこの映画の癒しとなっています。雛妓お千世も性格は大変優しい女性なのですが、何かわざとらしく感じてしまい、この辺りは演技力の差なのでしょうか。最後に出家してしまうシスコンのイケメン医学誌葛木は、メイクのせいか、喋り方のせいか、ずっとくどい感じ。昔の人ってなんかあると出家しちゃうのかしら。熊こと五十嵐も映画だと自分の体で培養したウジ虫を食べちゃうようなネットリとして気持ち悪い性質でしたので、どうすんだろうと心配していたのですが、ずっと爽やかで、寂しさと弱さを感じさせる男前に仕上がっており安心いたしました。しかし五十嵐の娘(5〜6歳?)は何でこんなに愛らしい!

映画では淡島千景が演じたお孝は、単に感情的な激しい女性(後に精神を病んでしまうので決して芯から強い女性ではない)という印象でしたが、舞台では可愛らしい性格(設定は20代後半)もよく出ており、人間としての奥行きが素敵。傘で車輪を表現するところはチャーミングで最高でした。最後にお孝が亡くなる前「迦陵頻伽のむかえのように、その笛の音を聞きながら、死出三途を小唄で越します」というような台詞があるのですが、迦陵頻伽(がりょうびんが)とは上半身が人、下半身は鳥の極楽に住む生物(美声で鳴く)、美しい芸妓や花魁の例えもなっているそうです。う〜ん、泉先生、深いっす。

しかし玉三郎は若い女性を演じても不自然さを感じないのが恐ろしい。身のこなしはもちろん、傘や杯とか小物を使う所作が本当に美しくて、こういう方は全く見飽きない。2時間27分と長い映画でしたが、眠くなることもなく大変楽しく拝見いたしました。

2020年夏再上演される『スーパー歌舞伎II ヤマトタケル』も2019年10月18日~10月24日の期間シネマ歌舞伎で上映予定、予告だけでテンション上がります。必見!

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