新作歌舞伎『風の谷のナウシカ 夜の部』新橋演舞場

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ 夜の部』を拝見してきました。『風の谷のナウシカ』というそう遠くない未来では漫画の古典となるであろう作品を歌舞伎で表現しようとし、それを実現されたことが素晴らしい。関わった全ての方々に感謝です。貪欲な歌舞伎の本質を考えさせる演目でございました。

配役
ナウシカ:尾上菊之助(音羽屋)
クシャナ:中村七之助(中村屋)
ユパ:尾上松也(音羽屋)
セルム/墓の主の精:中村歌昇(播磨屋)
ミラルパ/ナムリス:坂東巳之助(大和屋)
アスベル/オーマの精:尾上右近(音羽屋)
道化:中村種之助(播磨屋)
ケチャ:中村米吉(播磨屋)
庭の主:中村芝のぶ(成駒屋)
上人:嵐橘三郎(岡嶋屋)
クロトワ:片岡亀蔵(松島屋)
チャルカ:中村錦之助(萬屋)
ヴ王:中村歌六(播磨屋)
[声の出演]墓の主:中村吉右衛門(播磨屋)

まずは四幕目「大海嘯」、ヴ王お付きの道化がナウシカの世界観を解説、その後登場人物が大集合、後半だけ見る方には必要ですが、前半を見ていて、さらにナウシカの原作を読み込んでいる私にはちょっと退屈。ヴ王役の中村歌六さん、原作とはちょっと造形(体型)が違うため、あの太々しさはありませんが、風格ありますね(3階席まで声は聞こえてたのか?)!ナウシカの出から場面はオアシスへ。チククもちゃんと登場。その後ミラルパがナウシカを取り込もうと試みるもチククの吹き矢であっけなく退散。弱過ぎ。。。その後巳之助君がミラルパから兄のナスリムへの早替わりはもうちょっとわかりやすくした方が盛り上がったか。粘菌の表現や、蟲の大群に襲われたクシャナがクロトワを抱え「クシャナが歌ってやがる!?冗談じゃねえこんなときに」なシーンはそうきたか!面白いです。このシーンで重要なウシアブは(ヒドラも)何か可愛くて笑いが漏れてたのは残念。さらにクシャナのナウシカを好きになっていく過程、ナウシカを語る台詞がカットされているのも残念。米吉君のケチャのアスベルを追う、ダッシュは惚れた男にどこまでもって感じで可愛かった!しかしまぁ、内容が複雑な原作ですが、ざっくりざっくりと話が展開するので知らない方は付いていけないのでは(イヤホンガイドがあれば大丈夫なのか?)。しかし内容を理解できなくても楽しめるのが歌舞伎です!

ナウシカが王蟲と森になろうとする五幕目「浄化の森」、歌舞伎らしい舞踏から始まり。王蟲の抜け殻はこう使うか。藤娘、道成寺、鷺娘のダイジェスト、歌舞伎らしくはあるが、衣装のせいか、美しさは弱い。面白いけど、やっぱり笠は透明じゃない方が艶やかさは感じますよね。振り出し笠は腐海の植物かと思ったら王蟲の触手、今日の菊之助さんは先週より調子良さそうで安心。声も出てる気がいたしました。原作では王蟲の吐き出す漿(しょう)により眠りに付くナウシカを目覚めさせるためにやってくる森の人が、いきなり初登場。説明台詞が多く、まさかのちょっと眠気を帯びるという状態に。。。秘石をいとも簡単に奪われそうになるアスベルが笑える。蟲使いたちと一緒に墓所へレッツゴー。

六幕目「巨神兵の覚醒」は、もう名前の通り、目は3色に光りますが、やっぱり動かすのは無理ですよね。リアルな巨神兵は、後、映像でしか出てこず。。。そしてミラルパも弱かったが、ナスリムも弱い!ついでにヒドラも弱い。あっけなく死亡。内臓ズルズルで首だけで落下するシーンも見てみたかった!チククは吹き矢と、あと少しだけ活躍しますが、必要?「チククとクシャナ友達になろう」の重要な件が無いぞっ!チャルカも前半から出ずっぱな割に存在感が薄いか。首の数珠を引きちぎるシーンでは、ちぎれた時に落ちて広い、また投げ捨てるという妙なことに。。。漫画でこのシーンありましたっけ?

100分と長い時間がとられた大詰「シュワの墓所の秘密」は原作でも特に難解な最終巻部分。ユパ様も前半より見せ場少なく、あの名場面もちと物足りない。階段落ちですか。何故「王道」と言わず王の道と言ったのか。随分印象が違う気がします。夜の部で最も素晴らしかったのは「庭の主」役の中村芝のぶさんでしょう!あの演技、声の使い分けはゾクゾクしましたよ。素晴らしい!何でチラシに名前も出ていないのか!?って皆んな思うけど歌舞伎の法、理由は分かる。そして緑色のテト魂が登場してナウシカ再度復帰。ナウシカの「この世界の謎が解けました!」って台詞も凄い。言い切った!シュワの墓所では、オーマと墓の主の連獅子風の闘いは会場、盛り上がりましたね(私はそれほど好きな演出ではないが)。若手で美しく毛振りできる方が少ない印象です。ナウシカと巨神兵オーマが心を通わせ合うシーンもざっくりカットされており、オーマの個性も印象薄で最後が効いてこない、吉右衛門さんの声の存在感が薄かったのもちょっと残念。ナウシカを庇って瀕死のヴ王の喋りかける順番もちょっと気になったか。第一、第二皇子(激似でグッド)、アスベル、ミトそしてガンシップとメーヴェは何処行ったんでしょう?とにかく「どんなに苦しくても、生きねば!」、カーテンコールは1度だけであっさり終了でした!

ナウシカが最後まで目立たなかったのは怪我のせいなのか、台本のせいなのか。昼の部の勢いで盛り上がると思ったら、盛り下がってしまった夜の部でしたが、普段ごく一部の人々の間でしか話題にならない歌舞伎で、これだけ話題になったのだから成功ではないでしょうか。バタバタ感は否めませんが、ちゃんと全7巻やろうと思えば、倍くらい時間が必要で、むしろよくぞ纏めた印象。歌舞伎ファンとナウシカファンのバランス取るのも至難でしょうから、本当大変だったと想像します。ディレイビューイングは見に行く気がしませんが、あーだこーだ文句は言ってもまたアップデートして必ず再演して欲しいナウシカです。心より、ありがとうございます!

※『風の谷のナウシカ 昼の部』の感想備忘録。

コメント

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