開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」アーティゾン美術館


他の美術館は休館している所が多いですが、3月17日から再開したアーティゾン美術館「見えてくる光景 コレクションの現在地」にお伺いしました。こちらの美術館、基本的にチケットは事前予約で購入。面倒臭いなぁと思いながら行ってみると、とても良い美術館でした。

以前のブリジストン美術館もそうでしたが、ルノワール、モネ、セザンヌ、アンリ・ルソー、ゴーガン、カンディンスキー、ピカソ、ヘンリー・ムーア、梅原龍三郎、青木繁、前田青邨などなど美術の教科書でお馴染みの著名画家の作品がもれなく見られます。収集品約2,800点のうち、今回は206点が展示されていました。4階〜6階の3フロアで、上から見る構成は東京国立近代美術館に似ている感じ。花粉も飛んでないし快適です。大きく分けて2部構成になっておりますが、6階フロアの第1部「アートをひろげる」が見応えあります。

クロード・モネの色彩感覚は凄い。『黄昏、ヴェネツィア』、赤緑黄橙赤青緑紫のグラーデーションというよりか美しい混沌。すげーっ!アーティゾン美術館は基本的に写真撮影OKですが、写真では伝わらないでしょう。同じくモネの『睡蓮の池』、縦方向の画面に幻想的な虹色の反射光が素敵。

似た感覚で良いなと思ったのが藤島武二、この方の描く人物はとても魅力的。外国の女性を描いた『黒扇』は、右頬に入ったブルー、左頬にはピンク、扇の黒とベールの白の対比も見事。女性は焦点が合わないような目をしているのですが、正面、左右どこへ移動しても目が合うという非常に蠱惑的な作品、この女性が誰かわからないというのも神秘性を感じます。『屋島よりの遠望』、平家物語でも有名な香川県屋島の風景を描いていますが、ブルーとグリーン(ブルーグリーンではない)の海が画面の大変を占め、抽象画のような印象も受けます。手前の陸地と奥の空のオレンジ、ベージュ、紫、そして海にポツンと浮かぶ船も効いています。今回一番気に入った作品。『浪(大洗)』のパープルとグリーンの浪の表現も素敵です。

ジャン・デュビュッフェ『暴動』、アンフォルメル(1950年代に流行した抽象表現)の先駆者と見なされているフランスの画家ですが、『暴動』は1961年の作品で、明らかに人物と分かる6人が描かれ、さらに発展しているものと想像されます。色がぐちゃぐちゃではありますが、警官っぽい帽子に、明らかに違う肌の色と表情、戦後の激しい混乱が伝わってくる、パワーのある作品です。離れて見ると人物がくっきり浮かび上がるのが面白い。

上前智祐(うえまえちゆう)の黄と赤の2つの『作品』、初めて知った画家のような気がしますが、彫刻刀の後のような、単細胞生物のような長丸の集合体で、今にも動き出しそう。吉原治良の具体美術協会に参加していた方なので、きっと何処かで拝見したことはあると思われます。前田青邨『紅白梅』は紅白の梅にピンクの梅がアクセント。丸い梅花が可愛らしく、コンスタンティン・ブランクーシ『接吻』は、微笑ましく温かい気持ちになれる石膏像。左右の人物は似ていますが、胸の膨らみなどから男女の区別が付き、一体化しか口元の表現が素敵。

第2部「アートをさぐる」へ移り柄澤齊(からさわひとし)の『海百合花』『放散虫』『歯朶』『菊石』『甲冑魚』、全て『古生代の夢』という木口木版(=銅版画に近い緻密な表現効果が可能)画集から。魚、貝、植物などと融合した幻想的な女性画。小品の魅力が出ています。新収蔵作品の江戸時代17世紀の『洛中洛外図屏風』、右隻が祇園会の山鉾巡行、左隻は二条城の前の大行列。市井の人々の様子や大きな楽(火炎)太鼓が描かれ雅楽が演奏されている様子も。金雲の表現も面白い。小さすぎて見えにくので、拡大鏡が必要です。1日見てても飽きなさそう。ラウル・デュフィ『ポワレの服を着たモデルたち、1923年の競馬場』『オーケストラ』は明るく軽快でファッション画のよう。相当な洒落ものと想像されましたが、後で調べてみると舞台美術、テキスタイル、「VOGUE」表紙デザインもしていたとか。

再会したかった950-660B.C.にエジプトで作成されたブロンズ像『聖猫』も展示されていました!ブリヂストン美術館時代は照明の暗い古代コーナーに展示されていましたが、今回は明るい照明の下で表情も良くわかり、後ろからの姿も見れるのが嬉しい。細っこいスリムなフォルムに異様に長い前足が崇高さを感じさせます。緑青すら装束と化しているようです。素晴らしい。ミュージアムショップには聖猫のキーホルダーなども販売されており、やはりこの美術館のシグネチャー作品の1つですね。聖猫と同じコーナーに展示されていたギリシアで323-30B.C.に作成された『ヴィーナス』も良い。首、両腕は欠損していますが、腰布を押さえた左手のみ残されているのがとても神秘的。

作品の前に立ち入り禁止線もなく、スマホを使った音声ガイドも無料ととても快適な美術館ではないでしょうか。次の企画展『ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子 鴻池朋子 ちゅうがえり』がどのような展示になるのかとても楽しみです。このような状況の中、他の美術館に先駆け再会されたことが素晴らしい。アートの力は偉大です。

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