久しぶりの木馬亭で「浪曲定席木馬亭 令和7年3月番組」を拝見しました。
「天保水滸伝~鹿島の棒祭り」玉川絹華、曲師:玉川みね子
何度か拝聴したことのある演目、犬婆、平手造酒の豪胆さ、酒豪っぷりが楽しい。
「赤穂義士伝 大石東下り」天中軒景友、曲師:広沢美舟
啖呵を得意とした浪曲師の一心亭辰雄(喉を潰したため講談に転向し長谷川伸から一字を貰い服部伸としても活躍)が浪曲でも講談でも得意としたお馴染みの演目。大石が騙る名前は垣見左内。大きなお声で節回しも上手、大石と本物の垣見左内が出会う場面での緊迫感が素晴らしい。バンコクでムエタイ選手としてプロデビュー、スペインでギタリストとしての活動など多才な方のよう。
「文七元結」富士実子、曲師:沢村道世
浪曲で初めて聞く文七元結は落語と随分違う印象、主人公は熊五郎で娘はお花、女房はおかね、いきなり遊郭角海老の場面から始めるのは端折ったため?吾妻橋で文七と出会う場面の熊がかなり強気。演じる方によっても印象は随分違いそうで興味深い。
「鯉淵要人と山口辰之介」東家孝太郎、曲師:伊丹明
3月3日は「桜田門街の変」の日ということでそれに纏わる演目。最初に2人が出会う靄で霞む小名木川の場面が素敵。浪人となった山口に詫びにきた鯉淵、最初は良い感じだったのに、最終的には斬り合いになるのも楽しい。最後の雪の桜田門の場面も情景が浮かぶ。もしかしたら浪曲が一番、情景を想像しやすいかもしれません。
「裸川」広沢菊春、曲師:広沢美舟
北条時頼にも仕えた武士青砥左衛門尉藤綱の話。浪人だった藤綱が、川で小便をした牛に「川ではなく畑でやれ!」と言ったのを聞いた時頼が気に入って取り立てたり、鶴ケ岡八幡のお告げがあったから加増すると言う時頼に、「首を切れというお告げあったら首を切るのか」と切り返すなど豪放なエピソードが楽しい。滑川で11枚の一文銭を落とし、それを3両を使って探させる藤綱。ずるをした博打打ちの浅田小五郎にブチ切れ、裸で銭を探させたことから滑川は裸川となったという。かかった時間は97日。壮絶。
「やくざの恋」神田蘭
歌舞伎でもお馴染み長谷川伸原作の講談。上州無宿の小夜霧敬介と恋人お米の話。「日本六十余州は一つ国だ!」と啖呵を切る信州の大親分、高馬藤五郎も格好良い。「男でも操を立てなきゃいけねぇ!」という敬介の台詞が心に残る。途中で『愛して愛して愛しちゃったのよ』を歌うサービスも。
「浪曲偉人伝」玉川太福、曲師:玉川みね子
過去の浪曲師の逸話を伝える新作浪曲。100歳近くまで現役だった木村若友師匠、お茶を出したら侍みたいな格好良さで「よかろう!」と言われた話から。太福さんが後見(お手伝い)をしていた五月一朗師匠の奥様、曲師の加藤歌恵が、トリの直前、客席に聞こえる声量で「もう止めたい!」と言っちゃう可愛さ。一郎師匠の霞ヶ関のニッショーホールでのNHKの収録の時、入れ歯が安定しない師匠のために薬局でポリグリップ的なものを急いで買ってきて、収録が成功した後に「ワシのネタ、全部やる!」と言われた話。2日連続トリを取った木馬亭の1日目、途中で入れ歯が外れそうになり、テーブルの背後に消えた後、入れ歯を外して再登場し演じ切る。もう引退だ、と凹んでいたが2日目は入れ歯を最初から外して見事にやり切り「ワシもまだやれる!」と豪語した話など楽しい内容。昔は豪傑が多かったようです。
「唄入り観音経」三門柳、曲師:広沢美舟
2年ぶりに拝聴しますが、なんと体調不良で半年休んだ後の復帰舞台だそう。その思いを想像すると既に涙が。1929年に発売した三門博師匠の音源が200万枚の大ヒットを記録したという「唄入り観音経」。師匠には遠く及びませんがという謙虚な姿勢に好感、大きい声ではないものの気持ちの入ったうなりが素晴らしい。欧州から江戸に50両の年貢を届けにきた甚兵衛ですが、途中で金をスラれ吾妻橋から身投げしようとしたところを、通りがかった悪党木鼠吉五郎に55両を貰い助けられる。村に帰り吉五郎のために住職に観音経を教えてもらうが全く覚えられない。婆さんと2人で分担してやっと覚えた「或遭王難苦 臨刑欲寿終 念彼観音力 刀尋段段壊(わくそうおうなんく りんぎょうよくじゅじゅう ねんぴかんのんりき とうじんだんだんね)」の四節。歩きながらお経を唱える2人を見た若者が、江戸の流行り唄と間違えたことから奥州中に広まり、そのお陰か捕まっていた木鼠吉五郎も大岡越前の裁きにより出家し命を救われたという、痛快でハッピーエンドな話。このお年で命を削るようにも感じる一生懸命の浪曲に感動。浪曲って素晴らしい。
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