令和3年初春歌舞伎公演『四天王御江戸鏑』国立劇場

令和3年初春歌舞伎公演『四天王御江戸鏑』国立劇場
国立劇場で通し狂言『四天王御江戸鏑(してんのうおえどのかぶらや)』を拝見しました。数々の平将門、源頼光に関する伝説や新内節の『二重衣恋占(ふたえぎぬこいのうらかた)』を下敷きにしているそう。久々の3時間(休憩除き2時間15分)とたっぷりの演目、どたばたシーンもあり、以前の歌舞伎らしさも感じられ感慨無量。登場人物も多くてビックリ!

配役
鳶頭中組の綱五郎実ハ渡辺源次綱:尾上菊五郎(音羽屋)
茨木婆実ハ良門伯母真柴/一条院:中村時蔵(萬屋)
相馬太郎良門/平井左衛門尉保昌/袴垂保輔:尾上松緑(音羽屋)
女郎花咲実ハ葛城山の土蜘蛛の精/大宅太郎光圀:尾上菊之助(音羽屋)
やきいもの金/碓井靫負尉貞光:坂東彦三郎(音羽屋)
はらぶとの福/酒田主馬佑公時:坂東亀蔵(音羽屋)
源頼光:中村梅枝(萬屋)
卜部勘解由季武:中村萬太郎(萬屋)
鰈七郎盛付:市村竹松(橘屋)
三番叟/弁の内侍:尾上右近(音羽屋)
鮃九郎一裂:市村光(橘屋)
たるぬきの正:市村橘太郎(橘屋)
伴森右衛門:片岡亀蔵(松島屋)
皮肉の喜兵衛:河原崎権十郎(山崎屋)
豊後次郎忠政:坂東秀調(大和屋)
鰊の局:市村萬次郎(橘屋)
西光坊天山:市川團蔵(三河屋)
星鮫入道蒲鉾:坂東楽善(音羽屋)

右近君の勢いのある三番叟の舞から序幕「相馬御所の場」へ。竜宮城に見立てた下総相馬群の御所に星鮫入道蒲鉾、鰈七郎盛付、寒鰤次郎照焼など面白い名前の家臣達が居並びます。平将門の息子、相馬良門は大悪役という設定ですが、こんな変な趣向を凝らす所を見ると、そんなに悪い奴ではないのかも、と感じます。松緑さんはいつもの松緑さんですが、坂東楽善さん、市川團蔵さん、ベテランが素晴らしい。やはり年を重ねなければあの重たいが耳に心地よいお声は出せないのでしょう。幕が引かれると大蜘蛛が登場、くるくる回った後、スッポンから土蜘蛛の精、菊之助さん登場。薄暗かったせいもあるかもしれませんが、菊之助さん史上最も美しかった。お顔も細っそりされたような。傘を右、左に持ち替えながら、ふわりとした歩行で退場、妖艶さも加わり絶品!!

続いて二幕目第一場「羅生門河岸中根屋座敷の場」、羅生門河岸は吉原のお歯黒どぶに面した下級女郎屋(女郎蜘蛛とも掛っている)、羅生門の鬼のように道行く人の袖を掴み連れ込んだことからこの名前が付いたという。ここは掛け軸のアマビエからコロナネタ盛り沢山、菊五郎さんだけ2m以上しっかり距離を取っているのが笑える。片岡亀蔵さんは相変わらずの素敵な三枚目っぷりで、擂粉木、武左っこ、二本棒などと皆に軽んじられる役回りが楽しく、彦三郎さんも残った酒をあさっていたり芸が細かい。人でも物でもぐにゃぐにゃになる不思議な砂は、悪党を懲らしめるための伏線かと思いきやこの場面でしか出てこなかったな。最後は「Uber Eats」ならぬ「Ober Eats(音羽屋の「O」なのか?)」や国立劇場の女性スタッフまで登場し、皆ぐにゃぐにゃに。とても楽しい一幕でした。そういえば皆で踊っていた流行りの歌はなんだったのか。。。今時の歌やTVには全く付いていけませぬ。。。さらに第二場「同 花咲部屋の場」へ。ここは金に強慾な花咲の母茨木が楽しい。後でチラシをよく見て気付いたが、茨木と序幕に登場した良門の伯母真柴は同一人物だったのか!この変は謎が残ります。

休憩を挟んで三幕目第一場「二条大宮源頼光館の場」、ここは保昌に渡辺綱の振りを頼まれた綱五郎が楽しい。超格好良い立ち姿から保昌に向き直り、顔を見せる仕草なんて愛嬌が零れるほど。すぐ床入りしようとするのも笑える。綱と婚約している弁の内侍役の右近君の声が枯れているのが心配でしたが、花咲も加わり三角関係の修羅場、になりそうでなりません。正体を表した渡辺綱と茨木童子の対決の後、目出度く弁の内侍と夫婦となりました。綱の着物の柄が巴柄だったのですが、あえて火に対抗する水の模様を使っているのでしょうか。ここから菊五郎さんはしばしお休み。第二場「同 寝所の場」は松緑さん大活躍、この劇で松緑さん演じる双子の兄弟、武士の平井保昌と盗賊の袴垂保輔は、兄弟ではない実在の人物2人をモチーフにしており、特に藤原保輔=袴垂の経歴はかなりユニークで興味深い。この場で頼光役の梅枝君が初登場、立役も大分見慣れましたが、相変わらずの安定感です。

大詰「北野天満宮の場」の前半は、綱を除く四天王と土蜘蛛の闘い、菊之助さんは3階席からではどこが目やらもわからない、もはや地の部分の方が少ない隈取り。久しぶりの宙乗り(宙釣り?)。土蜘蛛の分身2人も登場し、見たことの無い武器も登場、撥状の木の先に蜘蛛の糸に見立てたリボンが6本着いたもの。あんまり恐くはないけど、なかなか面白い。止めは碓井貞光役のお声が男前過ぎる亀三郎さん、水破の矢で炎と化した土蜘蛛を見事に退治、花咲と同一人物だと思うと名残惜しさもございます。後半は北野天満宮にて。最後は勢揃いで菊と萬を読み込んだ渡りぜりふ。歌舞伎らしい華やかな幕切れでした。

事前に台本を読んでいたので、分かりやすかったですが、初見だと混乱しそうな複雑さ。実ハの人の場合もあるし、双子とか別人である場合もあるのがややこしい。しかしこの状況下でよくここまでやってくれた!という印象。国立だけあり歌舞伎座より攻めてます。やっぱり素晴らしかったのは菊之助さん、女郎、蜘蛛の精、大詰では少しだけですが大宅太郎光圀(山東京伝作『善知安方忠義伝』でがしゃどくろと闘う架空の人物)も演じ分けましたが、本当隙が無い!中でも最初の登場、花咲の美しさは悶絶級でした。菊五郎さん始め、出ている役者さんも素晴らしい方ばかりで、心が喜ぶ3時間。感謝です。

国立劇場、来月は文楽公演、楽しみにしています!

コメント

  1. […] 令和3年初春歌舞伎公演『四天王御江戸鏑』国立劇場 […]

タイトルとURLをコピーしました