木ノ下歌舞伎『勧進帳』東京芸術劇場シアターイースト

木ノ下歌舞伎『勧進帳』東京芸術劇場シアターイースト
東京芸術劇場シアターイーストで木ノ下歌舞伎『勧進帳』を拝見しました。初めての木ノ下歌舞伎、歌舞伎の演目を現代化した演劇、ということも来場後、パンフレットで知った次第です。

配役
武蔵坊弁慶:リー5世
源九郎判官義経:高山のえみ
冨樫左衛門:坂口涼太郎
常陸坊海尊/番卒オカノ:岡野康弘
亀井六郎/番卒カメシマ:亀島一徳
片岡八郎/番卒シゲエオ:重岡漠
駿河次郎/太刀持ち大柿さん:大柿友哉

舞台装置も何もない横長の白い舞台、舞台を挟むように客席が対象に設置されているのも面白い。アフターイベントの「木ノ下裕一による『勧進帳』プチ講座」で、平家物語→義経記→能『安宅』→歌舞伎『勧進帳』とボーダーを超えてきたとおっしゃっていましたが、『勧進帳』を現代化するにあたってのキーワードも「ボーダー」とのこと。

まずは待ち受ける冨樫側から。床に転がる首、リュックを背負って現代的な黒い衣装ですが、手には扇、腰に刀、弁慶以外の四天王は二役で舞台を駆け回る。椅子の上に蹲踞する冨樫、太刀持ちは冨樫が煙草を加えるとすぐに火を付ける。そしてマウントを取ろうとしてか仲間にレッドブルを買ってくる番卒オカノ、体に悪いと思ったのかレッドブルいらないと言う冨樫、ちぐはぐな微妙な空気に笑いが。

義経側は吉本興業所属のお笑い芸人リー5世の弁慶、片言なのが楽しい。義経役の高山のえみさんはお声が低くて凛々しく、言われなければ女性とわからないほど(トランスジェンダーだと後で知る)。「読み上げ」の場面などは、三味線、小鼓、大鼓のまさかの口囃子。激しい音楽に合わせた義経のすり足など古典的な要素も用い、場面転換の仕方が面白い。

関を抜ける前に、特に駿河が弱音を吐露、びびりまくっている様子は、実際はこんな感じだったのでは、と親近感。関を切り抜けた後は、様子が随分異なり、義経と弁慶の主従関係を越えた愛のようなものが表現されるのは倒錯感が凄まじい。そして冨樫も格好悪い。最初はクールな親分だったのが、だんだん化けの皮が剥がれていく様子。弁慶の気迫にたじたじ、追いかけて酒(天狗舞)やスナックを振る舞う様子も媚びているようにしかみえず、ビニールシートの袋が上手に開けられないという醜態もさらす。たこ焼きを振る舞うのは、本当の山伏なのか見分けるためかと思ったのですが、関係なかったのか。。。幕切れは、歌舞伎だと弁慶の「飛び六方」ですが、こちらは泣き笑いの表情の冨樫が1歩踏み出そうとしたところで。その後の嵐のような効果音は冨樫の窮まった進退を表しているのか。官僚の悲哀、現代に生きる人の切なさ。

能『安宅』、歌舞伎『勧進帳』、文楽『鳴響安宅新関』と全てを拝見しているのですが、歌舞伎の勧進帳は何度見ても、いまいち凄さわからず。能の『安宅』が今の所ベストですが、全てに置いて冨樫は影の主役な印象、冨樫の描写で『勧進帳』の醸すムードは大きく左右されるのでは。『義経記』は必読、また木ノ下歌舞伎の別の演目も拝見してみたいです。

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