10月奇数日に「芸術祭十月大歌舞伎」夜の部を鑑賞いたしました。
一本目は『通し狂言 三人吉三巴白浪』(さんにんきちさともえのしらなみ)です。1860年に二代目河竹黙阿弥作で初上演された『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)を、省略したもの。「廓初買」の評判は今ひとつだったものの、30年後に上演された「巴白浪」は大評判となってそうです。
配役
和尚吉三:尾上松緑(音羽屋)
お坊吉三:片岡愛之助(松嶋屋)
お嬢吉三:中村梅枝(萬屋)
手代十三郎:坂東巳之助(大和屋)
伝吉娘おとせ:尾上右近(音羽屋)
八百屋久兵衛:嵐橘三郎(伊丹屋)
土左衛門伝吉:中村歌六(播磨屋)
「序幕 大川端庚申塚の場」
このお話、この部分だけ上演されることも多く、私はここしか見た事がありません。今日通しで見た事で序幕の意味がわかりました。「厄落とし」と呼ばれるお嬢吉三の名台詞
「月も朧に 白魚の 篝も霞む 春の空 冷てえ風も ほろ酔いに 心持ちよく うかうかと 浮かれからすの ただ一羽 ねぐらへ帰る 川端で 竿の雫か 濡れ手で粟 思いがけなく 手にいる百両 (呼び声) ほんに今夜は 節分か 西の海より 川の中 落ちた夜鷹は 厄落とし 豆だくさんに 一文の 銭と違って 金包み こいつぁ春から 縁起がいいわえ」
佃島の白魚漁、節分の風情など江戸の様子が伝わりますが、連れに名台詞なんですよと言ってみたが、全然ピンと来ていないのが面白かった。それが現実。この物語は「百両」と「庚申丸」の動きが重要となってくるのです。この段では庚申丸は最終的にお嬢吉三の手に渡ります。
「二幕目 割下水伝吉内の場」
最初の夜鷹(私娼)三人の序幕「義兄弟の契り」のタコ足を使った再現が面白い。気になったのが夜鷹のメイク、顔は素肌で首だけ白塗り、映画「西鶴一代女」の田中絹代は顔だけ激しく白塗りだった。ほっかむりするので、顔だけ白塗りは夜に目立ち理にかなっている気がするが。そこそこお年の方も多いので、首の皺を隠すため、情事でメイクが乱れないため、目印などの説があるようですが、真相はどうなのでしょう。
歌六さんの「土左衛門伝吉」の凄みが伝わる一幕。百両を落として自殺しようとする真面目な「手代十三郎」、巳之助君好きですが、「伝吉娘おとせ」の右近君がとても良かった。(最初の三人との比較もあり)こんな綺麗な夜鷹がいたらホイホイ付いてっちゃいます。お嬢吉三が「八百屋久兵衛」の息子であること、恋仲の十三郎とおとせが実は双子の兄弟であるという重大な事実が仄めかされます。続く「本所お竹蔵の場」では首に掛けた数珠をちぎって凄まじく啖呵を切った伝吉があっけなく「お坊吉三」に殺されてしまいます。無念。ちなみにお坊は坊さんのことではなく、お坊ちゃんのこと。この方、なかなか良い武士家系の出なのです。愛之助さん、この雰囲気がよく出ていました。
「三幕目 巣鴨吉祥院本堂の場」
この場は魅力は、和尚吉三が十三郎とおとせを殺す決意をする場面と、お坊吉三とひょっこり欄間に隠れてたお嬢吉三とのボーイズラブ!二人とも様子がいいので絵になります。「裏手墓地の場」では和尚吉三に殺められる十三郎とおとせが切ない。猫のような手の動きが印象的、ここでもおとせ右近は儚げな面差しが素晴らしかった。とても切ないです(しかも首が偽物だとばれちゃうし)。「元の本堂の場」に戻り色々あって、お嬢吉三が必要な百両、お坊吉三が必要な「庚申丸」が2人の手に渡り大詰へ。
「大詰 本郷火の見櫓の場」
下手に清元連中、上手上方に竹本連中が陣取り浄瑠璃「初櫓噂高音」(はつやぐらうわさのおとわや)に合わせて物語が進みます。これはこの物語が『伊達娘恋緋鹿子』(八百屋お七)のオマージュであるためでしょうか。大詰でもボーイズラブ炸裂、格子に阻まれた2人の愛は雪を溶かすほどに燃え上がります。戸口を開くため櫓の太鼓を叩く場面、捕手との派手な立ち回りなど盛り沢山。仕組まれたように登場する八百屋久兵衛、グッドジョブ。最後は三人吉三で見栄を切って幕となります。この後三人とも逃れられず死んでしまうことになっていますが、本当はどこかで生きていて欲しい!
黙阿弥の七五調はリズム感があり聞いていて心地よいものも、長く続くとやや飽きるきらいがあるでしょうか(この辺りは役者の技量によるか?)。どちらかというと自然な演技のお嬢、お坊に比べ、松緑さんの和尚の濃厚かつ一本調子な演技はやや違和感、特に自分を指差す動きとか多くて。素敵だと思ったのは女方二人、中村梅枝と尾上右近、若手が生き生き演技しているのは見ていて気持ちが良いです。やはり最初と最後の盛り上がりが素晴らしかった。物語がよくわかる通し上演は好きです。
二本目は 『二人静』です。静とは源義経の妾で白拍子の静御前、お能の同名の演目を元にして舞踏劇です。
配役
静御前の霊:坂東玉三郎(大和屋)
若菜摘:中村児太郎(成駒屋)
神職:坂東彦三郎(音羽屋)
小鼓、大鼓、笛、三味線、途中から琴、太竿三味線が加わる囃子も華やかな舞台。神職の彦三郎の重厚感が良く、玉三郎さんの立ち姿の圧倒的な美しさと風格、光沢のあるブロック柄?の衣装も素敵。静御前と若菜摘、竹本?との声の重なりの演出、児太郎君の成長ぶりも凄いです。宝蔵から取り出した衣装を纏い二人が舞うシーンから幕までは見惚れているあいだに終了、キョトンとした終わり方もお能っぽくて良かった。均整が取れ凝縮感のある、あっという間の35分、超癒される一幕でした。お能ベースの話は大好き、一幕見でもう一回見たい。12月の歌舞伎の演目も発表されましたが、玉三郎さん!何を見ようかなかなか憎いことになっております。
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