二月大歌舞伎 昼の部『菅原伝授手習鑑』歌舞伎座

二月大歌舞伎 昼の部
「二月大歌舞伎 昼の部」を拝見しました。十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言『菅原伝授手習鑑』の通し狂言、全五段のうち初段から二段目の切までの少し短縮版。大奮発して1等席4列目です!

まずは斉世(ときよ)親王と苅屋姫の逢い引き場面、「加茂堤の段」から。

配役
桜丸:中村勘九郎(中村屋)
斎世親王:中村米吉(播磨屋)
三善清行:嵐橘三郎(伊丹屋)
苅屋姫:片岡千之助(松嶋屋)
八重:片岡孝太郎(松嶋屋)

本来はこの前に桜丸が兄弟の梅王丸、松王丸の絡みがあるのですが、すっ飛ばし。米吉君は珍しく立役。大好きな苅屋姫に会えた皇子とはいえ17歳の胸の高鳴りと若々しさが感じられて良かったです。美男子で若い女性にも人気らしい片岡千之助君は片岡孝太郎さんの息子様。初めて拝見したかも。動作があまり滑らかでなくギクシャクしてますが、お綺麗です。一緒に演技すると米吉君がとても上手く見える。

2人が車の中に入った後の勘九郎桜丸と孝太郎八重のラブラブシーンが素敵。若い者には負けません。「手洗いは愚か、お行水が入るかもしれぬ」などなどと台詞も湿り気があります。孝太郎さん、細かい動きも流麗で素敵です。三善清行一味と桜丸が争っている間に親王と姫は逃亡。清行が笏を倒して逃げた先を占うのですが、それが当たるのが面白い。

最後の見せ場は八重の牛引き。桜丸に車を御所へ戻すよう頼まれたものの、大きな黒牛に触れるのも恐々。紅梅の枝で刺激したり、後ろから押してもびくともしません。やっぱり八重ちゃんは不器用なのです。最後は紐を鼻輪に巻いて引っ張る強行、やっとこさのろのろと立ち上がる黒牛。太鼓の音と合わせて引くのも良かったし、最後の孝太郎さんの八重の勝気な表情が本当に素晴らしかった。

早めのお昼休憩を挟んで菅丞相が武部源蔵に伝授の一巻を授ける「筆法伝授の段」です。

配役
菅丞相:片岡仁左衛門(松嶋屋)
園生の前:片岡秀太郎(松嶋屋)
梅王丸:中村橋之助(成駒屋)
腰元勝野:中村莟玉(高砂屋)
左中弁希世:市村橘太郎(橘屋)
荒島主税:中村吉之丞(播磨屋)
三善清行:嵐橘三郎(伊丹屋)
水無瀬:坂東秀調(大和屋)
戸浪:中村時蔵(萬屋)
武部源蔵:中村梅玉(高砂屋)

左中弁平希世のシーンから。市村橘太郎さん良いです。登場した瞬間に胡麻擂りエロ下衆貴族っぷりを感じさせてくれます。期待通り可憐な莟玉君を「屏風の陰でついちょこちょこ」しようとしますが、タイミング良く(悪く)園生の前登場。希世の「エヘンッ」は可愛いが、この段最後まで下衆いのでちょっといらいら。片岡秀太郎さんの落ち着きと重厚感はとても素敵。

花道から源蔵夫婦が登場しますが、菅丞相に勘当されている身分なだけにビビり過ぎて超絶思い足取り。菅丞相の元に行く際の周り舞台を使った演出が良い。長い廊下を一歩一歩、大切に進む源蔵から「身の嬉しさ怖さ」が伝わってきます。注連が引かれた菅丞相の学問所に移り、御簾が上がりついに片岡仁左衛門さん登場。後に神となり、人々に愛される菅原道真。無言であっても流石の品格と存在感。希ちゃんの子供じみた妨害にも負けず、めでたく筆法伝授。しかし勘当は許されません。参内の際、菅丞相の冠が自然に落ちるのは見所。仁左衛門さん、格好良すぎますよ。源蔵の女房戸浪は、菅丞相のお顔を拝みたいものの、園生の前の着物の陰から覗き見。「戸浪の悔みは夫の百倍」の語りですが、この感情はよくわからん。

菅丞相館門外に場が移り、源蔵の立ち回り。中村梅玉さんの力の抜けた演技は好きですが、タテもゆる〜。空気を相手にしているようですが、これもまた名人芸。梅王から築地を挟んで菅秀才を受け取り去っていく源蔵夫婦。橋之助君の梅王はやっぱ若過ぎるな。芯のある強さを下さい。戸浪が園生の前に貰った小袖の縫箔のお守りに包まれ顔だけ覗かせる菅秀才がお饅頭みたいでやたら可愛い。この段は大きな動きがなく、筋を知らないと余計に退屈かもしれません。

最後はクライマックス「道明寺の段」です。

配役
菅丞相:片岡仁左衛門(松嶋屋)
判官代輝国:中村芝翫(成駒屋)
立田の前:片岡孝太郎(松嶋屋)
奴宅内:中村勘九郎(中村屋)
苅屋姫:片岡千之助(松嶋屋)
贋迎い弥藤次:片岡亀蔵(松嶋屋)
宿禰太郎:坂東彌十郎(大和屋)
土師兵衛:中村歌六(播磨屋)
覚寿:坂東玉三郎(大和屋)

最初の見所は立田の前と苅屋姫姉妹が、坂東玉三郎さん演じる母覚寿に杖で打擲される件。菅丞相の木像による不思議が起こります。その後、菅丞相を無き者にしようとする土師兵衛、宿禰太郎(立田の前の夫)親子が登場。合図の鶏の首を小まめに動かす大きな体の坂東彌十郎さんが可愛い。鶏に生命が感じられました!しかし兵衛の合図に気づかないなど宿禰太郎はかなりぼんやりです。なんで立田の前と宿禰太郎が結婚しているのか謎。覚寿もよく認めましたね。謀略を立ち聞きしてしまい、太郎に無残に殺される立田の前。鳴き止まずに首を折られる鶏も可哀想。あんなに活躍したのに。。。偽迎えの輿(こし)に乗るまでの菅丞相の木像的動きが素晴らしい。

池に沈んだ立田の前を捜索する奴宅内は勘九郎さん、愉快な場面ではありますが、おっぱいがぷるぷるし過ぎて爆。笑いがぶれてますが。。。立田の前を殺害したのが、宿禰太郎だと気づくシーンはやや大げさ。万歳して自ら刺されに行ったかに見える宿禰太郎も大げさ。憎めないキャラなのだけど。「流石に河内群領の、武芸の筺残されし」、母は強し。ただ坂東玉三郎さんの覚寿は、全般的には感情を抑えた演技が、菅丞相を引き立てており良い感じ(あまり印象に残らなかったが)。その後、味方の判官代輝国が登場(芝翫さん太られました?)し、またまた木像の不思議により万事解決。

別れの場面では、覚寿が菅丞相のために用意した苅屋姫の小袖をかけた伏籠(苅屋姫が忍んでます)から聞こえる鳴き(泣き)声、菅丞相、覚寿、苅屋姫、それぞれの思い(やり)が交錯します。苅屋姫の行動はもはや恋する女。凡義父ならこうはならないのでは。源氏物語の「玉鬘」の官能が連想されますが、苅屋姫の千之助君は仁左衛門さんの孫なので、妙な感じに。さり気なく手渡す扇が妙に官能的ではありますが。この段の苅屋姫ってかなり重要なお役では、と感じます。とはいえ華のあるお二人です。「鳴けばこそ 別れを急げ 鶏の音の 聞こえぬ里の あかつきもがな」、最後は花道七三で右袖を巻き上げて姫を思い振り返る「天神の見得」、この世の別れとなります。でもって一番最後は輝国が残り引っ込みなんですね。菅丞相で締めたほうが良い気もするが、理由があるのでしょう。

歌舞伎の面白さの1つは今日の三世代共演のように、役者の血脈や個性がお役に重なること。私は特別贔屓の役者がいる訳でもなく、強い思い入れがある訳でもないので、時にそれが、自身の想像(妄想)力のストッパーとなり物語の邪魔になることも。それ故か歌舞伎では泣いたことがない。全然泣けない。この演目も前評判が頗る良かったので期待し過ぎたか。歌舞伎って難しいわ。台詞、義太夫はほぼ文楽の床本通り。『菅原伝授手習鑑』のはやはり完成度が高く、大変面白い物語、役者と太夫の応酬は歌舞伎ならではの楽しさです。梅玉さん、時蔵さん、玉三郎さん、歌六さん、彌十郎さんと脇を固める役者も大変豪華、片岡仁左衛門さんの気高い菅丞相を間近で拝見できて、大変有難き昼の部でした。

※ジムで運動する際、落語をランダムで聞いているのですが、今日かかったのは桂枝雀の「質屋蔵」、下げは、角の四平さん(藤原時平とかかっている)から預かっている絵像から藤原道真公が抜け出し、「質置きし主に、疾く利上げせよと伝えかし。どおやらまた……流されそうじゃ。」、こんな偶然も楽しい1日でした。

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