初めての素浄瑠璃の会、最初は鶴澤三寿々さんのお話。京都府南丹市園部町にある武部源蔵所縁の「生身天満宮」、菅原道真左遷後、八男の慶能君を密かに養育し、さらに道真の木造を自ら製作し、納めた生祠が天満宮の礎となったという。その話が『菅原伝授手習鑑』の元になっているんですね。勉強になります。
まずは二月歌舞伎座でも拝見した「筆法伝授の段」から。
配役
菅丞相:竹本綾之助
御台所:竹本土佐子
希世:竹本越若
源蔵:竹本越孝
戸浪:竹本越京
局・諸太夫:竹本越春
三味線:鶴澤津賀花
舞台に太夫の方々が横にズラっと並び、上手の三味線。文楽とはまた違った面白さ。そのお役担当の方は、台詞と動きを語るので、とても分かりやすく、女性の高音はお声がよく通り、聞き取りやすいのも良いです。人形が無い分、ほぼ切れ目なく進み、三味線による感情表現も如実さが感じられます。皆様のコンビネーションが素晴らしいです。希世役の方はやっぱりちょっと剽軽で、源蔵役の竹本越孝さんの凛々しい語りがとても素敵でした。
続いて二月文楽公演で拝見した「車曳の段」、あまり掛かることのない部分だそうです。女性にとっては時平はかなりの難役なのではないでしょうか。
配役
梅王丸:竹本佳之助
桜 丸:竹本駒佳
松王丸:竹本越里
杉王丸:竹本寿々女
時平:竹本綾一
三味線:鶴澤寛也
先ほどの段より年齢もお若くなったでしょうか。ちょっとアニメ声の桜丸と梅王丸の掛け合いが楽しい。文楽同様「待てらふ待てらふ」で松王丸役の太夫さん登場。強そうで、配役もぴったり。時平のあの不気味な笑いも迫力ありましたね。
最後は「寺子屋の段(奥)」、松王丸による首実検の所から。
配役
浄瑠璃:竹本駒之助
三味線:鶴澤津賀寿
今までは太夫により役割分担されていましたが、こちらは竹本駒之助お一人で全てを語ります。どこで息継ぎしてるんですか?っていうくらい流暢なリズムのある語り。切れ目がありません。ちょっと聞き取りずらい部分もありましたが、そこはあんまり関係ないというか、人物の感情が捉えられる方が重要。鶴澤津賀寿さんの三味線も跳ねてます。歌舞伎ではじっくり演じる首実検の場、松王丸の「管秀才の首討ったは、粉ひなし、相違なし」の台詞の前も溜めなく語り抜けます。松王丸の女房千代の長台詞「子を殺さしにおこして置いて、どふ内へ、去なるるものぞいの」の嘆きはグッときます。がっ寺子屋の一番の魅力はラストでございました。
歌舞伎ではさらっと語り全然意味を感じられなかった「いろは送り」が素晴らしい!
いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず
一列がそれぞれ『涅槃経』の中の無常偈「諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」を表すという。それを受けての「いろは送り」の詞章。
いろは書く子はあえなくも、散りぬる命是非もなや。あすの夜誰か添乳せん、らむ憂い目見る親心。剣と死出の山け越え、あさき夢見し心地して、跡は門火に酔ひもせず、京は故郷と立ち別れ、鳥辺野さして立ち帰る。
浄瑠璃ですと、この部分は体感5分くらいかけてじっくり語られていました。今までの流れは全部前振りだったか。駒之助さんの静かに燃えるような感情表現が凄まじい。これは泣く。この部分は千代の思いを表すそうですが、夫婦の思いと感じられました。文楽で「寺子屋」は拝見したことはないので比較できないのですが、素浄瑠璃だからこその良さがあるのかもしれません。素浄瑠璃でもカタルシスをしっかり感じられました。最高です!
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