九月大歌舞伎 第三部『東海道四谷怪談』歌舞伎座

九月大歌舞伎 第三部『東海道四谷怪談』歌舞伎座
歌舞伎座で「九月大歌舞伎 第三部」を拝見しました。仁左衛門さん、玉三郎さん約38年ぶりの共演ということでも話題の『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』、『仮名手本忠臣蔵』の世界を背景にした鶴屋南北の名作です。

配役
お岩/お花:坂東玉三郎(大和屋)
直助権兵衛:尾上松緑(音羽屋)
小仏小平/佐藤与茂七:中村橋之助(成駒屋)
お梅:片岡千之助(松島屋)
按摩宅悦:片岡松之助(緑屋)
乳母おまき:中村歌女之丞(成駒屋)
伊藤喜兵衛:片岡亀蔵(松島屋)
後家お弓:市村萬次郎(橘屋)
民谷伊右衛門:片岡仁左衛門(松島屋)

まずは「四谷町伊右衛門浪宅の場」から。いきなるとっ捕まえられる小仏小平は、伊右衛門お岩に仕えていますが、主人である小汐田又之丞を助けるため民谷家秘伝の薬「ソウキセイ」を盗んだから(伊右衛門に質屋に売られてしまうが)。その後隣家の伊藤喜兵衛に仕える乳母おまきがお岩のために「血の道の薬(実は毒薬)」を持参。昨日あまり寝ていなかったのに加え、国立劇場で文楽を見た後だったので、今日は絶対寝る!自信があったのですが、玉三郎さんの薬を飲むシーンで目が覚めた。台詞回しも非常にゆっくり、ここまで丁寧にやるかってことに驚いたのですが、後に理由がわかりました。玉さん凄ぇ!

続く「伊藤喜兵衛内の場」、お岩に催促されお礼に向かう伊右衛門。取り巻きのお吸い物は小判、伊右衛門にはお梅。おい、お爺ちゃんと孫が夫婦って歌舞伎の面白さ。千之助君の女方は正直あまり上手ではないが、見た目は綺麗。年齢差55歳以上ですが、バランスが悪くないのが仁左衛門さんのステキな恐ろしさ。お二方の美しさを堪能した後は「元の浪宅の場」へ。毒薬により面様が変わったお岩、伊右衛門は金がいるといってお岩と子供の着物、蚊帳まで奪い、さらには言わなくてもいいのに、お梅を後添えにという事実も告げます。昼間見た文楽『卅三間堂棟由来』の和田四郎も下衆だったが、こっちのがド下衆だった。

その後の「髪梳き」がやばかった。丁寧に、そして雑にお歯黒を塗った後、髪梳きを始めるお岩、ちょっと抜けた毛を戻していたのはミス?逆に怖かったが。他の登場人物はやや非現実的なのですが、お岩だけいやにリアル。それまで丁寧に演じていた効果がここで鮮やかに炸裂。1階前列で見てたらトラウマになるレベル。按摩宅悦が気が狂うのも当然。髪は抜けざんばら、抜けた髪から血までしたたります。超現実的な演出ですが、現実味をもって迫ってくるのが凄すぎる(宅悦の後ろを向いて手をふるふるさせる非現実的な驚き方との対比が爆)。落ちぶれてもお岩は武士の娘なので、男女の愛情、顔の醜悪というより、自分の家、血をないがしろにされた時の恨みは半端ではないのか。そしてお岩が倒れた寝室へ吸い込まれました赤子はどうなったんでしょう。薬は顔を変えるだけ、刀が刺さったわけでもないので、この場合は恨み死にか。それは念は強かろう。玉三郎さんの表現力が本当見事で感動。その後、喜兵衛、お梅、おまきと共に帰ってくる伊右衛門、この凄惨な場面を見ても冷静なのが怖い。よくお岩が寝ていた場所でお梅と初夜を迎えようとしたな。亡霊となったお岩、小平と間違えお梅の首を切り落とし、喜兵衛を切って殺してしまいますが、先ほどのお岩の鬼気と比べればそう怖くない。最後は青い火の玉と伊右衛門で決まり幕。

もうここで終わっても満足と思いましたが「本所砂村隠亡堀の場」はおまけな感じ。筋を知らなければ全く意味不明。ネズミが出てきてお弓のお守りを加えていってしまうのはわかりにくい(お岩の亡霊が操っているのか)。その後、乳母おまきが川に落ちていくのも不思議。松緑さんがやっと登場、とても贅沢な登用で、仁左衛門さんとの絡みが新鮮です。「戸板返し」の後、橋之助君の2役目、佐藤与茂七はお岩の妹お袖の夫、「だんまり」で玉三郎さんの2役目、小平女房お花が急に出てくるのも不自然ですが、最後を締めるために仕方無いのでせう。

いや玉三郎さんが本当凄まじ過ぎて、仁左衛門さんも、ちょっとだけ霞んだな。素晴らしいものを見せていただきました!

コメント

タイトルとURLをコピーしました