十二月大歌舞伎 昼の部『たぬき』『保名』『壇浦兜軍記』歌舞伎座

「十二月大歌舞伎 昼の部」を拝見しました。一本目は大佛次郎作、1953年に新橋演舞場で初演された新歌舞伎『たぬき』です。

配役
柏屋金兵衛:市川中車(澤瀉屋)
妾お染:中村児太郎(成駒屋)
太鼓持蝶作:坂東彦三郎(音羽屋)
狭山三五郎:坂東亀蔵(音羽屋)
芸者お駒:市川笑也(澤瀉屋)
女中お島:市川弘太郎(澤瀉屋)
隠亡多吉:片岡市蔵(松島屋)

主人公の柏屋金兵衛のお葬式のシーン「深川十万坪の場」から。復活した金兵衛と隠亡(おんぼう)多吉のぼんやりしているようで、人間の本質を語るやり取りが素敵です。家族には死んだことにして、別人として生きたい金兵衛が、多吉を説得するシーンが良いです。今の境遇に満足しいている多吉が面白い。結局嫁への不満と金10両で解決。妾お染を頼るも思い通りに行かず、人間の嫌な部分を知ることに。児太郎君の演技は、玉三郎さんによく似ている。この幕の最後に金兵衛が小判の入った木箱をギュッと抱きしめるのは、とても切ないシーンです。

「芝居茶屋の二階の場」へ移ります。お染の兄、太鼓持蝶作と芸者お駒の死んだはずの金兵衛にそっくりな人を見たというやり取りから、甲州屋長蔵となった金兵衛登場。市川笑也さん、驚き方とかとってもチャーミングで素敵です。隣の劇場で『伽羅先代萩』の「御殿の場」を見た後、悲しい演目、特に子供が不幸になるのは辛いと語る金兵衛。その後、蝶作と2人切りになった後の蝶作のびびりっぷりが最高です。盛大に吹き出しましたね。「本宅に近き寺の境内の場」に移り、たまたま通りがかった息子の梅吉と出会います。弘太郎君の人の良さそうな完璧な女中っぷりも良いです。最後は意を決して、自宅へ帰る金兵衛と意味がわからず残される蝶作で幕。歌舞伎には珍しいしれっとした幕切れ。死人は静かなもの、生きている人間の方がよっぱどがめつい。でも生きているって良いです。所々に「たぬき=他抜き」というキーワードも登場する味わい深い演目でした。

二本目は清元舞踏『保名』です。

配役
保名:坂東玉三郎(大和屋)

恋人「榊の前」を無くし狂乱してしまった安倍保名、形見である小袖を持ち、榊の前の幻を追い、桜の菜の花が咲き乱れる春の野辺での美しい舞、玉三郎さんの一人舞台です。清元の語りはほとんどわからないが、、、扇の使い方とか本当素晴らしく、血が通っているようです。「夜さの泊りはどこが泊りぞ」からは田中傳左衛門さんの小気味良い小鼓が入ります。とんでもなく悲しい詞章のようですが、それは勉強不足の私には伝わらず、とても美しくあっという間の23分でした。

三本目は『壇浦兜軍記』「阿古屋」です。

配役
遊君阿古屋:中村梅枝(萬屋)
岩永左衛門:市川九團次(高島屋)
榛沢六郎:坂東功一(大和屋)
秩父庄司重忠:坂東彦三郎(音羽屋)

内容については説明不要の人気演目。人形振りの岩永左衛門は目を瞼に描いてる?こういう方法も有りなんですね。梅枝君の阿古屋、お綺麗です。重忠役の彦三郎さんも風格あって、言葉も分かりやすくて良い。功一君も男前です。昨年の玉三郎さんの阿古屋も拝見したのですが、文楽の「阿古屋」を一度見てしまってからはなおさら、そちらの方が面白く感じてしまいます。とはいえ歌舞伎らしい華やかさは素晴らしく、楽しませていただきました。歌舞伎座は今日で最後でしたが、1年ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします!

※追記
岩永左衛門の瞼に目は、昨年玉三郎さんが演じた岩永を踏襲されたと後日判明しました。

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