国立劇場 大劇場で「今に生きるサムライの心~吟と剣詩舞~」を拝見しました。思ったより公演時間は短く20分の休憩を入れて1時間30分ほどでした。
ます、第1部「吟詠の魅力~サムライの心を描く~」から。吟詠は、詩吟と同じ意味、朱子学や陽明学の影響を受けた漢詩や和歌を、節をつけて歌う邦楽で江戸時代には武士にも広く親しまれたそう。講談師の神田蘭さんの司会です。
「富士山:石川丈山」吟道精修流:梶原麗修
仙客来り遊ぶ 雲外の巓(せんかくきたりあそぶ うんがいのいただき)
神龍栖み老ゆ 洞中の淵(しんりゅうすみおゆ どうちゅうのふち)
雪は紈素の如く 煙は柄の如し(ゆきはがんそのごとく けむりはえのごとし)
白扇倒に懸かる 東海の天(はくせんさかしまにかかる とうかいのてん)
「不識庵機山を撃つの図に題す(川中島):頼山陽」吟詠アカデミーガクヨウ:土澤美岳
鞭声粛粛 夜河を過る(べんせいしゅくしゅく よるかわをわたる)
曉に見る千兵の 大牙を擁するを(あかつきにみるせんぺいの たいがをようするを)
遺恨なり十年 一剣を磨き(いこんなりじゅうねん いっけんをみがき)
流星光底 長蛇を逸す(りゅうせいこうてい ちょうだをいっす)
「日本刀を詠ず:徳川光圀」契秀流:伊藤契麗
蒼竜猶お未だ 雲霄に昇らず(そうりゅうなおいまだ うんしょうにのぼらず)
潜んで神州 剣客の腰に在り(ひそんでしんしゅう けんかくのこしにあり)
髯慮鏖にせんと欲す 策無きに非ず(ぜんりょみなごろしにせんとほっす さくなきにあらず)
容易に汚す勿れ 日本刀(よういにけがすなかれ にっぽんとう)
「名槍日本号(今様入り):松口月城」吟詠道鶴州流:河野鶴聲
美酒元来 吾が好む所(びしゅがんらい わがこのむところ)
斗杯傾け尽くして 人驚倒(とはいかたむけつくして ひときょうとう)
古謠一曲 芸城の中(こよういっきょく げいじょうのうち)
呑み取る 名槍日本号(のみとる めいそうにっぽんごう)
「坂本龍馬を思う:河野天籟」心嶺流:池田嶺煌
幕雲日を掩うて日 将に傾かんとす(ばくうんひをおおうてひ まさにかたむかんとす)
南海の臥龍 帝京に翔る(なんかいのがりょう ていきょうにかける)
一夜狂風 幹を折ると雖も(いちやきょうふう みきをおるといえども)
維新の大業 君に頼って成る(いしんのたいぎょう きみによってなる)
「本能寺:頼山陽」錦水流:清水錦洲、聖風流:浅田聖謙
本能寺溝の深さ 幾尺なるぞ(ほんのうじみぞのふかさ いくせきなるぞ)
吾れ大事を就すは 今夕に在り(われだいじをなすは こんせきにあり)
茭粽手に在り 茭を併せて食ろう(こうそうてにあり こうをあわせてくろう)
四簷の梅雨 天墨の如し(しえんのばいう てんすみのごとし)
老阪西に去れば 備中の道(おいのさかにしにされば びっちゅうのみち)
鞭を揚げて東を指させば 天猶早し(むちをあげてひがしをゆびさせば てんなおはやし)
吾が敵は正に 本能寺に在り(わがてきはまさに ほんのうじにあり)
敵は備中に在り 汝能く備えよ(てきはびっちゅうにあり なんじよくそなえよ)
尺八:河野正明、十七弦:柿木原こう、筝:石垣清美、囃子の方々も素敵でした。演歌の元になっているのはきっと吟詠なのでは。歌の内容が激しめなので、共感できませんが、リズムは良い。これに剣舞も合わせることもあるようですが、歌だけでも十分楽しめました。
続いて荒木無人斎流居合道十六代、神伝真正早渕流剣詩舞道宗家の早淵鯉將による第2部「剣舞 レクチャー~武士の魂、心と技~」です。合気道は内に、剣舞は外に発散するものだそう。合気道の追い込み、飛龍、応じ小手を披露していただきました。最前列で見ていたのですが、真剣を使われるので、大変に迫力あります。姿勢がとても美しい。
20分の休憩挟んで第3部「サムライの心をつらぬく『忠臣蔵』剣詩舞と講談と笛」、「剣舞」早淵鯉將/五月女凱昂/増井鯉冠、「講談」神田蘭、「笛」福原徹を合わせた面白い演出でした。大石内蔵助の山科での遊興から、仇討ちを果たすまでを超駆け足で。早淵鯉將さんが大石内蔵助、五月女凱昂さんが村上喜剣、増井鯉冠さんが大石主税役で剣舞を交えた芝居調、「大石良雄」「村上喜剣」「大石主税:大橋梧軒」「四十七士:大塩平八郎」の吟詠、漢詩に合わせて。神田蘭さんの講談がやや歯切れが悪く感じてのは客層に合わしてかな。思っていたのとは少し違いましたが、大変に興味深い公演でした。
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