千駄ヶ谷、国立能楽堂で行なわた令和二年一月狂言の会『三本の柱』『法師ヶ母』『彦市ばなし』を拝見しました。
狂言『三本の柱』善竹忠重(大蔵流)
新築や改築の時に上演される祝言の曲。シテの果報者役の善竹忠重さんは初めて拝見したかも。背が高く細身で彫りの深い男振りの良い方で、このお役にぴったり。太郎冠者、次郎冠者、三郎冠者の三人も皆キャラが違って良い。アニメや小説とかでも良くある3人組の元祖は狂言か。特に太郎冠者役の体の大きい善竹富太郎さんは見てるだけでほっこり。台詞もとても聞き取りやすいです。内容は「三本の柱を二本ずる持って帰るように」果報者に命じられた三人が知恵を絞るお話。あんな持ち方で山を降りられるのかと思ったら、そうきたか。「三本の柱を 三人の者どもが 二本ずつ持ったり げにもさあり やようがりもそうよの〜」と囃子ながら三本の木をお神輿のように担いで帰宅。目出度い。最後は中に果報者が入り舞うのは正にお神輿(依代)。う〜ん、楽しい!目出度い!
狂言『法師ヶ母』野村万作(和泉流)
年の初めは野村万作さん拝見したくなります。萬斎さんの女性役は初めて拝見しましたが、夫(父)を立てる控えめな演技がとても良い。明るい黄色の装束で、通常大きく見せる萬斎さんが、頑張って体を小さく見せているのが愛らしい。万作さんは橋掛りに登場しただけで能楽堂内の空気が変わり、私の目は潤む。酒でべろべろになって、無茶苦茶な理由で妻を離縁してしまいます。離縁の印にと本当に塵を結んで渡してしまうなど擽りも楽しい。その後、能形式となり、方脱ぎ、狂い笹を持ち狂乱の体で再登場、やっぱり狂うのは男性のほうが共感できます。道行く人や知人に妻の行方を必死で尋ねる様子は痛々しく、先ほどの酔いの醜態との対比も見事。狂いを表現したカケリの所作、表情が素晴らしい。妻を失った夫の悲しみが伝わってきました(完全に自業自得ですが!)。最後は妻を見つけて「顔も見とうない」から「顔が大好き」となり仲直りでハッピーエンドなラブストーリー。泣ける狂言もあるんですね。名人芸、堪能させていただきました。
新作狂言『彦市ばなし』茂山千五郎
民話で有名な登場人物という彦一は肥後国熊本藩の下級武士だとか(大分県中南部では吉四六という名、焼酎の吉四六はそういう意味だったのか!)。この狂言は木下順二作で、彦一民話の「天狗の隠れ蓑」「河童釣り」の2つの話を合わせて創作したもの。昭和30年に初めて狂言で上演されました。1時間弱の話ですが、完成度がとても高く、能楽堂内は笑いが溢れました。わかりやすくてきっと子供でも楽しめる。彦一が主役という訳でなく、天狗の子、殿様の三人が主役。茂山千之丞さんの子天狗もお持ち帰りしたいほど可愛かったし(「面をなでなで、鯨を食い食い」の言い方最高!)、愛くるしいお地蔵さんのようなお顔の茂山逸平さんの殿様も大らかで伸び伸びした演技がとても素敵でした。台詞は熊本弁で素朴で温かい雰囲気に和みます。客席に「隠れ蓑着てるから見えないでしょ?」みたいに話しかけちゃう演出も神楽っぽくて楽しい。道具は中央に一畳台、その上、上手側に子天狗が隠れる楠の作り物が置かれます。途中で楠は撤去され、一畳台を川辺、降りると川という演出。彦市は嘘つき名人なのですが、嫌われ者というわけでなく、むしろ皆から好かれている模様、憎めない人物、フォルムも笑顔も愛嬌のある茂山千五郎さんにの嵌り役。天狗の面(親天狗の父に顔がそっくり)を付けた殿様を、子天狗の父と間違え謝る時の綺麗な逆V字型の土下座に爆笑。動きは狂言よりも現代のコントに近いが、お笑い芸人とは体の使い方が全く違う。最後の河童釣りの場面では彦市は嘘つきって知っているはずの殿様はあくまで純粋、きっと民衆から愛されている方なのでしょう。『のぼうの城』の殿様を思い出しました(映画では野村萬斎さんが演じられてました)。川中での彦市と子天狗の喧嘩では、彦市は古式泳法、天狗は豪快にバタフライ?、そして橋掛りを連続でんぐり返りで去っていく。滑稽味の極み。最後の殿様の高笑いで締め。拝見していてとても幸せで、心が温かくなる寒い日に最高の新作狂言でした。
本日拝見したどの狂言もそうですが、鍛錬された美しく均整のとれた動きから放たれる深みのある笑い。軽妙な現代のお笑いも好きですが、狂言は全く違った面白さ、感動があります。88歳の万作さんから迸る気迫、エネルギーとか、もう半端ない。久々の狂言の会でしたが、流派の違いもわかりとても楽しめました。素晴らしい芸能を拝見できたのことに感謝です。
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