二月大歌舞伎 夜の部『八陣守護城』『羽衣』『人情噺文七元結』『道行故郷の初雪』歌舞伎座

二月大歌舞伎 夜の部
「二月大歌舞伎 夜の部」を拝見しました。ある人がおっしゃっていた歌舞伎好きには堪らないが、歌舞伎に興味が無い人には、全く興味が湧かない演目たちとは言い得て妙です。

一本目は十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言『八陣守護城(はちじんしゅごのほんじょう) 湖水御座船の場』です。1807年に人形浄瑠璃で初演されたもの。「御座船」は四段目に当たります。十三世仁左衛門の最後の舞台となったのが『八陣守護城』の佐藤正清とのこと。

配役
佐藤正清:片岡我當(松嶋屋)
斑鳩平次:片岡進之介(松嶋屋)
正木大介:中村萬太郎(萬屋)
鞠川玄蕃:片岡松之助(緑屋)
轟軍次:片岡亀蔵(松嶋屋)
雛衣:中村魁春(加賀屋)

佐藤正清(加藤清正)が北畠春雄(徳川家康)に勧められた酒を、毒酒と知りながら飲んだ後、琵琶湖上を船で帰っていく場面。同船している女性「雛衣」は正清の息子「主計之助(かずえのすけ)」の許嫁です。正清役の片岡我當さん、お声も全然出てないし、瀕死感が感じられるのは役作りかと思ったのですが、現在85歳、2014年から5年ほど体調不良でお休みされていたのですね。先日シネマ歌舞伎で拝見した『吉田屋』(2009年上演)のお元気なイメージがあったので驚きました。そんな中、船上での悠々とした酒盛り、雛衣の美しい琴の演奏、ゆったりと舞う一羽の雁も素敵。途中、北畠の家臣「鞠川玄蕃」続いて「轟軍次」が正清の様子を見に来ますが、元気な姿を見て「面妖な・・・」と言い残し、さらに進物の鎧櫃に刺客まで忍ばせます。そんな家来の細かい話なぞどうでもよいほど、片岡我當さんの存在感が際立っていました。乗っている朱色の船も大きいですが、赤っ面に菱皮の鬢、黒天鵞絨の着付け、赤地錦の裃と武勇を表す装いの正清も負けずに大きく見えました。声も小さくて台詞もあまり聞こえないのだけど、凄いです!最後は船が150度ほど回転し、幕切れ。刀で体を支える正清、お役との一体感に寒気すら走る気力。短い演目ですし、一幕見でまた見たくなる。もう今後見る機会はないかもしれない。間違いなく今日一番印象に残る演目でした。

二本目は『羽衣』です。能「羽衣」をベースとした長唄に舞踏で、説明一切不要の人気演目。

配役
天女:坂東玉三郎(大和屋)
伯竜:中村勘九郎(中村屋)

久しぶりの玉三郎さんの古典的な舞踏だったので、期待していました。しかし何が理由かはわかりませんが、あまりグッと来るものがなく、淡々と終了。人間と違う天女の魅力というものは全く感じられませんでした。玉三郎さんにかかわらず舞踏はやっぱり近くで見たいわなぁ〜。にしても本当何だろうか?

三本目は三遊亭圓朝の創作落語を元にした『人情噺文七元結』です。落語の演目としても大好きで、先日シネマ歌舞伎でも楽しめた「文七元結」なので、楽しみにしていましたが。

配役
左官長兵衛:中村菊五郎(音羽屋)
和泉屋清兵衛:市川左團次(高島屋)
女房お兼:中村雀右衛門(京屋)
和泉屋手代文七:中村梅枝(萬屋)
娘お久:中村莟玉(高砂屋)
小じょくお豆:寺嶋眞秀(音羽屋)
家主甚八:片岡亀蔵(松嶋屋)
角海老手代藤助:市川團蔵(三河屋)
角海老女房お駒:中村時蔵(萬屋)
鳶頭伊兵衛:中村梅玉(高砂屋)

う〜ん、長兵衛のキャラクターが全然違うし、内容もちょっと違う。時代を反映しての改変?やっぱり長兵衛親方は酒でなく、ばくちのみで借金作らないと。「吉原角海老内証の場」でも娘にあからさまに優しすぎるし、皆んな泣きすぎ(莟玉お久が大変に可愛いのは理解できますが!)。特に角海老女房お駒はもう少しどっしりと構えていてほしいし、長兵衛親方にはもっと強情とも言える痩せ我慢を感じさせてほしい。50両の借金の返済期限も本来は「来年の大晦日」なのに「来年の3月」までにしたのは何故。50両といえば、少なくとも300万円は越える金額だと思うのですが。最後は中村梅玉さんと美しく着飾った中村莟玉君のお久で場は賑わいましたが。長兵衛がゴリゴリの江戸っ子基質でないと本来の面白みは感じられない演目ではないでしょうか。

四本目は十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言『道行故郷の初雪』です。近松門左衛門作の文楽『冥途の飛脚』(歌舞伎では『恋飛脚大和往来』)の下之巻を下書きとした清元舞踏。

配役
忠兵衛:中村梅玉(高砂屋)
万才:尾上松緑(音羽屋)
梅川:片岡秀太郎(松嶋屋)

浅葱幕が落とされると筵で忠兵衛、梅川の顔を隠してぽつねんと。雪が降る中、しずしずとした舞が見ていて心地よい。悲劇に向かうお話ですので、雰囲気は暗いですが、万才が登場して舞台が華やぐのは歌舞伎らしい。最後は忠兵衛の父「孫右衛門」を見つけるも会いたくても会えない二人。逃避行はもう少しだけ続くよう。梅川役の片岡秀太郎さんのしっとりした演技に、優しく寄り添う中村梅玉さんのコンビがとても良かったです。

公演の後、行きつけのお店で日本酒を6合飲んでしまったので、舞台の記憶を沢山失ってしまいました(特に『道行故郷の初雪』)。。。鑑賞後の飲み過ぎには気を付けなければと、ほんの少しだけ、反省。それにしても片岡我當さんは記憶に残る素晴らしさでした。来週の昼の部『菅原伝授手習鑑』も楽しみです!

コメント

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