歌舞伎座「八月納涼歌舞伎 第三部」で京極夏彦氏が初めて歌舞伎舞台化のために書き下ろした新作歌舞伎『狐花(きつねばな)葉不見冥府路行(はもみずにあのよのみちゆき)』を拝見、京極夏彦さんの小説は一度も読んだことがありません。
配役
中禪寺洲齋:松本幸四郎(高麗屋)
萩之介/お葉:中村七之助(中村屋)
近江屋娘登紀:坂東新悟(大和屋)
監物娘雪乃:中村米吉(播磨屋)
辰巳屋番頭儀助:中村橋之助(成駒屋)
辰巳屋娘実祢:中村虎之介(成駒屋)
的場佐平次:市川染五郎(高麗屋)
上月家老女中松:中村梅花(京扇屋)
辰巳屋番頭仁平:大谷廣太郎(明石屋)
信田家下男権七:松本錦吾(高麗屋)
雪乃母美冬:市川笑三郎(澤瀉屋)
近江屋源兵衛:市川猿弥(澤瀉屋)
辰巳屋棠蔵:片岡亀蔵(松島屋)
雲水:市川門之助(瀧乃屋)
上月監物:中村勘九郎(中村屋)
発端、不穏な風の音、赤ん坊の鳴き声から。怖いことが色々あり、中央から2つに分かれて引かれる紅色の幕は曼珠沙華のようで格好良い。陰陽師の五芒星、信田という家名、狐花(彼岸花)からおおよその内容は想像可能ですが、そこまで裏切られることはない。幕間までの前半が面白い!七之助さんの安定感はもちろん、珍しく悪女登紀を演じた新吾君の上手さに目を見張る。実祢役の虎之介君、雪乃役の米吉君、そして発端しか出番はありませんでしたが美冬役の笑三郎さん、婆にしか見えない梅花さんと女方が凄く良い。永遠に生えてくる不気味な彼岸花、恋人殺し、父殺し、火事と不穏な空気が流れ謎が深まる前半、稲荷神社とだんまり、幸四郎さんの出番は2場しかありませんでしたが面白い!後半は幸四郎さんの長台詞、七月もあれだけご活躍していたのだから流暢でないのは致し方なしで、舞台を重ねるほどによくなると想像。非道な悪役上月監物を演じた勘九郎さん、歌舞伎感が薄い中、それらしい雰囲気がグッと高まる表情、そして役柄も新境地な印象でとても良いですが、萩之介の思考と性癖とトリック、上から真っ直ぐ落ちてくる彼岸花、堅牢な座敷牢への侵入の仕方とか色々もやもや。萩之介や雪乃の最期も呆気なしで、雲水の存在も不思議。狐の精ともされる荼枳尼天、狐花、幽霊花、火事花、捨て子花、葉見ず花見ずなど無数の名前のある彼岸花と古典的なテーマで新作な感じはあまりなく、そして何となく火サスを思わせる音楽が微妙でしたが、舞台転換のスムーズさは素晴らしい。下旬にもう一度見てみたいかも。
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