四月大歌舞伎 第三部『桜姫東文章 上の巻』歌舞伎座

四月大歌舞伎 第三部『桜姫東文章 上の巻』歌舞伎座
歌舞伎座第三部『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)上の巻』を拝見しました。36年ぶりの仁左衛門さん、玉三郎さんによる上演ということで俄かにざわついている公演。四世鶴屋南北作、1817年に河原崎座で初演(市川團十郎、岩井半四郎コンビ)された時の台本がKindleで販売されていたので入手。事前準備もばっちりです。

配役
清玄/釣鐘権助:片岡仁左衛門(松島屋)
入間悪五郎:中村鴈治郎(成駒屋)
粟津七郎:中村錦之助(萬屋)
奴軍助:中村福之助(成駒屋)
吉田松若:片岡千之助(松島屋)
松井源吾:片岡松之助(緑屋)
局長浦:上村吉弥(美吉屋)
役僧残月:中村歌六(播磨屋)
白菊丸/桜姫:坂東玉三郎(大和屋)

まずは発端「江の島稚児ヶ淵の場」から。白菊を探す相承院の僧たちと自久(後の清玄)を探す長谷寺の僧たち、幕が開き自久と白菊丸、当時としてはよくあったことでしょうが、いきなり男色。玉三郎さんでも少年役は流石に厳しいか。南無阿弥陀仏からの白菊の躊躇無いあっさりとした飛び込みには驚きましたが、これは超感情的な桜姫の性格にも影響しているよう。それに対しびびって飛び込めない弱腰の自久、海中から鬼火、飛び立つ雁が意味ありげです。

珍しい口上があって、「新清水の場」へ。色鮮やかなセットに、桜姫を中心に居並ぶ腰元たちが眩しい。玉三郎さん、お綺麗です。清玄の十念により良いか悪いか桜姫の左手が開き「清玄」と書かれた忍草模様の香箱出現。仏教では現世、インドでは不浄を表すから、やはり右手より左手である意味があるのか。善人役のイメージがある鴈治郎さんが悪役の入間悪五郎役、桜姫に横恋慕する完全な嫌な奴ですが、たびたび笑いが起きていたのはお人柄でしょう。破戒僧残月役の歌六さん、破戒局長浦役の吉弥さんコンビも良いですね。両方悪役ですが、二人ともちょっと下品で、何か憎めない歌六さんに、ちょっと年上、残月大好き長浦の絡みはとても面白い。その後仁左衛門さん二役目、釣鐘権助登場、清玄からの変化もお見事。巧いです。裾の捌き方とか痺れますねぇ。話を盗み聞きしていた局を無感情で絞め殺す残忍さ。入間側と吉田側との揉め事の時、松若が傘を差して飛び降りるのは、あまり格好良くない。下に衝撃を柔らげる布が敷いてあるのですが、草に模すなどわかりにくいようにして欲しいかも。

続いて一番の見所の「桜谷草庵の場」、出家するのしないのと桜姫と局たちの会話があり花道から悪五郎の艶書を託された権助登場。超雑に扱われる艶書が可哀想ですが、艶書が悪五郎そのものに見え笑える。桜姫と権助の濡れ場、たった一度で大当たり、くるくる回って帯を解き合う二人が艶かしい。有難や。一番良い所で簾で目隠しですが、その間に残月と長浦もコチョコチョしていたらしく、口を必死で濯ぐ残月が滑稽で、口も悪〜。簾の隙間から権助と桜姫の情事を一生懸命覗く2人の気持ちはわからんでもない。うまいこと清玄をはめた残月ですが、粟津七郎に長浦の起請が見つかり一緒に追放です。

20分の休憩を挟み「稲瀬川の場」、源吾に折檻されている清玄と桜姫。花道から十作と長浦が登場し、預かっていた桜姫の子供を、桜姫になすり付ける。大事な数珠を切ってまで、桜姫に本気を見せる清玄はもはや高僧の面影なく煩悩の塊、寺を出されたのを桜姫のせいにする下衆っぷりで、ストーカーまっしぐら。悪五郎が再び登場し子供を奪い、桜姫に俺と一緒になれと脅しますが、信夫の惣太(=権助)からの密書を七郎に奪われ、追いかける。子供あっさり捨ててくんかい!川から這い上がって子供を見つける清玄、赤子を放っておけない優しく女々しい人なのでしょうが、桜姫が全く惹かれないのは、権助のような男臭さが全くないからでしょう。わかるわ〜。「桜姫ヤアイ」の二度の嘆きが切ない。

当初の台本では、この後、「押上植木屋の場」「郡治兵衛内の場」があるのですが、ざっくりカット。無くても全く問題ない部分ですが、吉田家に所縁のある半兵衛役は團十郎で三役目。後の場で傘(軍助が作った)に書かれていた「ほころびし 花の袂は 風のみか わりなく濡るる 雨もいとはめ」は、同じく吉田側の山田郡治兵衛の吃音の娘小雛が書いたもの。この歌を理由に婚約者の半十郎(半兵衛の弟)共々、桜姫の身代わりとして首を切られるという悲しいお話です。

上の巻、最後は「三囲堤の場」、三囲(みめぐり)は三囲神社で墨田区向島に今もあります。この前に奴軍助が死んでしまったり、鳥居に桜姫の絵像が貼られたり色々あるのですがカット。闇夜に何も見えず、すれ違う清玄と桜姫。仁左衛門さんの傘を使った立ち回りがとても素敵です。

二重人格とも思える清玄桜姫始め性質精神のひん曲がった人たちばかりのR-18指定な演目ですが、内容は面白い。36年前の熱狂は孝玉コンビのアイドル的人気のよるものだと想像しますが、この舞台を歌舞伎初心者の方が見た感想を聞いてみたいものです。物語の設定とは50歳以上も離れているのに、不自然さが無いのは、荒唐無稽な世界観を寛容に受け入れてしまう歌舞伎ならでは、という理由もありますが、それにしても仁左衛門さん、玉三郎さん凄過ぎるだろ。玉三郎さんの美貌はもちろんですが、仁左衛門さんの演技の素晴らしさを堪能できる一幕でした。6月の後半も楽しみです!

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