吉例顔見世大歌舞伎『鬼一法眼三略巻』『連獅子』『市松小僧の女』歌舞伎座

例顔見世大歌舞伎『鬼一法眼三略巻』『連獅子』『市松小僧の女』
11月「吉例顔見世大歌舞伎 夜の部」の千穐楽を鑑賞いたしました。

一本目は『鬼一法眼三略巻 菊畑 中村梅丸改め初代中村莟玉披露狂言』、女形の多い梅丸改め莟玉君が牛若丸を演じます。なるほど、ここから『一条大蔵譚』につながるのか。

配役
奴智恵内実は吉岡鬼三太:中村梅玉(高砂屋)
奴虎蔵実は源牛若丸:中村梅丸改め莟玉(高砂屋)
笠原湛海:中村鴈治郎(成駒屋)
吉岡鬼一法眼:中村芝翫(成駒屋)
皆鶴姫:中村魁春(加賀屋)

体が小さい莟玉にはぴったりのお役。他役者と比べ体が小さいのは色んな役を演じる上で不利になることもあるでしょうが、逆にそれを武器にしてすくすく成長してもらいたいです。梅玉さんとのコンビは流石にグッと来ますね。8歳で部屋子に迎え、15年後の今年養子にされたということで、色とりどりの菊が咲き誇る鮮やかな舞台の上、本当に嬉しそうでした。話の中程、「笠原湛海」演じる鴈治郎さんの登場から口上へ。適役の鬼一を演じていますが、やっぱり芝翫さんは良い人っぷりが出ちゃってます。ずっと丸ちゃんとあだ名で呼ばれていたらしいですが、莟玉になってどうなるのか。「玉ちゃん」だとあの人とかぶるし「莟ちゃん(かんちゃん、つぼみちゃん)」でしょうか。それも楽しみ。

話に戻り、皆鶴姫のクドキ、魁春さんの菊攻撃が凄い!「いろかはる秋のきくをばひととせに」の下の句「ふたたびにほふ花とこそみれ」を言わせたり、菊はくるくる回しながら牛若に近づいていく様は、雛鳥を狙う蛇のような危うさ。親鳥梅玉のしどろもどろな様子も楽しい。結局は2人は良い仲になり、最後は牛若、鬼三太、皆鶴姫3人で決まりました。鬼一の菊を見るための眼鏡とか「土に食いつき詫びければ」という表現とか大口ですが弱すぎて一瞬で牛若に切られちゃう鴈治郎さんとか、湛海を切った刀を布で拭う三味線の擬音とかとても素敵でした。高砂屋さん、おめでとうございます!

二本目はお馴染み『連獅子』 、染五郎君は歌舞伎座では初めての仔獅子役だそうです。

配役
狂言師右近後に親獅子の精:松本幸四郎(高麗屋)
狂言師左近後に仔獅子の精:市川染五郎(高麗屋)
僧蓮念:中村萬太郎(萬屋)
僧遍念:中村亀鶴(八幡屋)

特に内容をわざわざ説明するお話ではありません。前半の狂言師の二人舞は親子だけにコンビネーションもばっちり、染五郎君も父譲りの華やかさ、手足も長いので大きく見えます。襲名してからの幸四郎さんも良い。ただ最終の毛振り、長く続く「巴」の染五郎君は見ていてちょっと痛々しかった。体幹が重要だと思うのですが、長い足のせいか、最終日の疲れのせいなのか。首が大丈夫だったかちょっと心配になりました。昔の日本人体型の方が向いているのでしょう。比較すると以前拝見した海老蔵さんの気振りは形が美しかったなと感じます。とはいえ歌舞伎らしい華やかな舞台は大盛況。盛大な拍手の中で幕。

三本目は『市松小僧の女』、池波正太郎さんが歌舞伎のために書き下ろしたもので、なんと42年振りの上演。これは本当最高!今まで見たコメディの中で一番笑いました!

配役
お千代:中村時蔵(萬屋)
市松小僧の又吉:中村鴈治郎(成駒屋)
南町奉行同心永井与五郎:中村芝翫(成駒屋)
娘お雪:中村梅枝(萬屋)
森田屋彦太郎:中村萬太郎(萬屋)
嶋屋重右衛門:市川團蔵(三河屋)
おかね:片岡秀太郎(松嶋屋)

このお話の時蔵さん、鴈治郎さんのコンビは本当反則!ズルい!ひきょう!キャラ立ち過ぎ!時蔵さんが演じるのは呉服屋嶋屋の長女、男勝りの剣術使い「お千代」、24歳で竹の子ご飯が好物です。登場のインパクトが凄い、ごつい体に加え、あのメイクは何なんですかっ!チラシの写真と全然違うし。眉毛の角度とか面白過ぎ!妖怪人間ベラ並みの上がり眉。最終日だったので、日ごとに角度が段々上がってったのかとか、時蔵さんがニヤニヤしながらお化粧されている姿なんか想像してしまい完全にツボに入ってしまいました。泣くっ。一人だけ異物感凄いですが、出落ちで終わらないところが名人芸ですね。

嶋屋の主人はお千代の婿にしようと森田屋彦太郎を説得しますが、「生贄は嫌だ」などと好き放題言われ散々。それでも何とか纏まりそうでしたが、最後は彦太郎の前で、お千代がごろつきを正拳突き一撃で沈めるのを見て破談。

場面は乳母「おかね」の家へ。お千代は実家から避難して、今はここに住んでいます。おかねを演じるのは今年歌舞伎脇役で人間国宝となった片岡秀太郎さん、可愛いユーモアたっぷりのお婆ちゃん役が最高。ここでお千代は掏摸の市松小僧こと又吉と出会い、悪事を懲らしめている間に良い仲に。お千代の「可愛い顔してるね」がグッド。季節は秋から夏へ。お千代と又吉のラブラブな様子が最高。二人とも可愛い過ぎるっ!「死んだお袋にだかれているみたい」って何。お千代・又吉とお役だけ見ても面白いし、素の時蔵・鴈治郎を役を通して見ても面白い!この二重構造の面白みは歌舞伎の醍醐味ではないでしょうか。又吉がお千代にひっしと抱きついている様子はグッズにしたら売れると思います。役人永井役は中村芝翫さん、涼やかで洒落た良い男のお役がとても似合う。又吉の前髪を剃刀で落とす場面の鴈治郎さんの涙目素晴らしいです。場面が変わると2年後、嶋屋主人が資金を出してくれたおかげで、お千代と又吉は深川に市松屋という小間物屋を開店し、なかなか繁盛の様子。お店の前まで番頭に連れて来られるも、なかなか会うことができないお父さんが愛らしい。甲斐甲斐しく細かやにお客の対応をするお千代を見て「変わるものだねぇ」と一言。トラブルはありながらも、最後は雪の中、2人で抱き合い幕。末長くお幸せにと心から思いました。これだけはまり役だと次がなかなか難しいですね。可愛らしい人々が沢山出てくる幸せになる一幕でした。

全演目、とても素敵な夜の部。派手な連獅子の後で大丈夫かと心配しましたが、時蔵さん全部もってっちゃいました。流石です。次の日も思い出してニヤニヤが止まりません。素晴らしい舞台でした。来月も十二月大歌舞伎、新橋演舞場の『風の谷のナウシカ』、国立劇場の『蝙蝠の安さん』など楽しみです!

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