シネマ歌舞伎『蜘蛛の拍子舞』『身替座禅』東劇

シネマ歌舞伎『蜘蛛の拍子舞』『身替座禅』東劇
6月1日から営業再開した東劇でシネマ歌舞伎『蜘蛛の拍子舞』『身替座禅』を拝見しました。2009年の歌舞伎座さよなら公演からの二演目。席数は1/4程度に絞っての営業で、入館時に体温チェックと手の消毒有り、客入りとしては20人くらい?かなりゆったりで安心安全です。

一題目は作品名も初めて知った『蜘蛛の拍子舞』、本名題は我背子恋の合槌(わがせここいのあいづち)、拍子舞は役者が自ら台詞を言いながらの舞、源頼光(らいこう)と四天王による土蜘蛛退治の物語です。

配役
白拍子妻菊実は葛城山女郎蜘蛛の精:坂東玉三郎
渡辺綱:尾上松緑
碓井貞光:中村萬太郎
卜部季武:尾上右近
源頼光:尾上菊之助
坂田金時:坂東三津五郎

それまでの筋が全くわからないのですが、花山天皇が出家したため、荒れ果てた御所に物の気を退治しに来た頼光たち、調子の悪い頼光に酒を進めたところ、上から小さい蜘蛛が現れ、さらにどろどろと共にスッポンから白拍子妻菊登場。あな美しや。最初の見所は大薩摩と長唄による刀尽くしの拍子舞。例の如く詞は3割くらいしか聞き取れませんが、菊之助、松緑、玉三郎お三方の掛け合いが素敵。そして正体が露見し、千筋の糸を繰り出しながら妻菊はスッポンから退場。右近君はこの時、17歳。わっかー。そうは見えない凛々しさと落ち着きっぷりは流石です。

その後、出てくる推定1mくらいの蜘蛛がいやにリアルな動きで気持ち悪い。さらに着ぐるみ蜘蛛人間と奴たちの楽しい立ち回り、ついに親玉登場。隈取りが怖すぎで衣装も変わっていますが、赤の振袖も下に着ているのが良い。糸を撒き散らしながらの立ち回りですが、やっぱり玉三郎さんの所作の美しさが際立ちます。素早く糸を回収する後見の動きも素晴らしいですね。最後は坂田金時役の坂東三津五郎さんの押戻し。この迫力は凄い!短い舞踏劇かと思っていたら1時間以上有り、見応えありました。歌舞伎楽しぃーい!

前日に『蜘蛛女のキス(1985年 監督:エクトール・バベンコ)』という映画をたまたま見ていました。ウィリアム・ハート演じるルイス・モリーナはゲイであり、映画内ではそれに対する中傷も数多く出てきます。劇中劇と現実が交錯し、様々な問題を孕む醜くも美しい悪夢のような映画で、蜘蛛女は刑務所の同じ房に収監された男への愛が溢れたルイスの幻想のようなもの。それと天皇に服従せず、結果滅ぼされてしまった土蜘蛛という何となくの類似性が興味深い。蜘蛛女も涙するなら、最後は悍ましい姿になった蜘蛛の精もきっと涙しているはず。日本では−土蜘蛛が起源なのかは不明ですが−昔から妖怪として蜘蛛は描写されていますが、欧米の蜘蛛のイメージはどんなものなのでしょう(女郎蜘蛛は欧米にはいないらしい)。

それはさておき、二題目は今年「4月大歌舞伎」で上演予定でしたが、中止のため見られなかった『身替座禅』、狂言の『花子(はなご)』をベースとした松羽目物です。

配役
山蔭右京:中村勘三郎
太郎冠者:松本幸四郎
侍女千枝:坂東巳之助
侍女小枝:坂東新悟
奥方玉の井:坂東三津五郎

歌舞伎に親しんだのも5年前からで、テレビも15年近く見ていないので存在は知っていましたが、どんな演技をされるのかは最近まで全く知らなかった中村勘三郎さん。今更ですが、映像でも拝見すると本当に素晴らしい演技。狂言師の野村万作さんのように登場しただけで、舞台の雰囲気が優しさに包まれる方がいますが、勘三郎さんもそれ。登場しただけで、もう楽しく期待が高まります。現在の歌舞伎役者で、抜群のチャーミングさがありながらも、風格や貫禄も備えている人はいないのでは。女好きの憎めない大名役が抜群に調和しています。

遊女の花子に会うために太郎冠者を身替りにするも、結局奥方(山の神!)にばれてしまうという極単純なストーリーだけに、技量が試されるか。勘三郎さんの台詞の言い回し(聞き取りやすい!)や表情、動作はもちろん、間の取り方が抜群!笑えます。奥方玉の井役の坂東三津五郎さんも鬼の怖さと女性の可愛らしさがばっちり表現されており素敵です。太郎冠者の松本幸四郎さん、侍女役の新悟君は安定の出来。女方が珍しい巳之助君は黙ってれば綺麗なのだが、喋ったら男だわ。動きや着こなしも新悟君と比べるとやや粗い気がしますが、三津五郎さんとの親子共演は良い。

見所は、太郎冠者と玉の井が入れ替わったのを知らずに見せる、花子との逢瀬を表現する踊り、体だけじゃなく、顔でも踊ってる。手紙を破る所作など扇の使い方も巧いなー。悋気しぃの玉の井は扇で頭を叩かれたり、花子とのラブラブな様子を聞かされ、地団駄を踏みますが、出て行くに出て行けない。衾(ふすま)を被ってふるふるする玉の井も可愛過ぎる。うふふふふ。最後は衾を剥ぎ取ると玉の井が現れ、追いかけられながら幕という狂言お決まりのもの。あっという間の1時間、いっぱい笑わせていただき最高でした!劇場再開の目処が見えない中、当分はシネマ歌舞伎が癒しとなりそうです。久々の大画面での歌舞伎、堪能させていただきました!

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