二月大歌舞伎 第一部『本朝廿四孝 十種香』『泥棒と若殿』歌舞伎座


二月大歌舞伎 第一部を拝見しました。今月は20時までに終わらなければいけないため10時30分からの上演。遠方の方には厳しい時間かもしれません。そのためか他の部と比べ客入りはちょっと寂しいようです。まずは義太夫狂言『本朝廿四孝 十種香』から。中村魁春さんの八重垣姫は17年振りだそう。

配役
八重垣姫:中村魁春(加賀屋)
武田勝頼:市川門之助(瀧乃屋)
白須賀六郎:中村松江(加賀屋)
原小文治:市川男女蔵(滝野屋)
腰元濡衣:片岡孝太郎(松島屋)
長尾謙信:中村錦之助(萬屋)

前段階として武田勝頼と盲目の勝頼のすり替えが行われており、武田勝頼の身代わりに盲目の勝頼は切腹。腰元濡衣は実は盲目の勝頼の恋人で武田家方。まずは花作り蓑作として忍び込んだ武田勝頼が登場。花柄の紫色の裃と赤い熨斗目が艶やか。下手では濡衣が盲目の勝頼を思って、上手では八重垣姫が勝頼を思って絵像に向かい十種香で供養しています。勝頼と瓜二つの蓑作を見つけるまでの魁春さんの動きは文楽的、人間っぽくない動きが素晴らしい。濡衣役の孝太郎さんの2人を見守る表情なども良い。しかしその後八重垣姫のクドキなど独擅場が続きますが、ちょっと保たない。ご注進の2人もいまいち盛り上がらないのは、客入りの悪さと錦之助さんの謙信にいまいち凄みがないからかもしれない。なかなかシビアな一幕でした。

続いては山本周五郎作の新作歌舞伎『泥棒と若殿』です。

配役
伝九郎:尾上松緑(音羽屋)
松平成信:坂東巳之助(大和屋)
迎えの侍:市川男寅(滝野屋)
同:尾上左近(音羽屋)
宝久左衛門:市川弘太郎(澤瀉屋)
梶田重右衛門:中村亀鶴(八幡屋)
鮫島平馬:坂東亀蔵(音羽屋)

松平成信が幽閉されている屋敷の忍び込む伝九郎、床を踏み割ったり、上から物が落下したりと散々。3日間何も食べていない成信に同情して薩摩芋を進呈。その後、不思議な2人の共同生活が始まります。夫婦というよりか、子供を養ってる感覚か。身分の違い過ぎる2人、伝九郎が普段は出会うことはない気品のある大名の子息に、周囲に不信感を抱いている成信が、純粋で生命力、人間力に溢れる伝九郎に惹かれるのは納得。お互いの名前を聞く際の伝九郎の「ただのノブ?そういや狐の忠信って芝居があるな。見たことも、やったこともねぇが」は爆笑。松緑さんの体型も肝っ玉母ちゃんっぽく見えるし、尽くした義父に親不孝物と言われたり、1人目の女房に裏切られたり、2人目の女房がどケチだったりと沢山ひどい目に合っているにもかかわらず、優しさを失わず、全く擦り切れることのない伝九郎が凄い。見ている人は皆、伝九郎が好きになるのでは。前半はとても良く、2人の交流にジワっときた。

ぶれない伝九郎に対し、心情がコロッと変わる成信には共感できない。デンクを苦しめた人々に同情を見せたり、殿様としては大事なのかもしれないが、人間同士としての付き合いとしてはズレていると感じる台詞が多い。別れの朝にノブがデンクに始めてご飯を作る時も、結局は黙って去ろうとするし、最後の置いておかれた伝九郎が、桜の花びらと共に風に吹かれる場面は、救いを感じず、ちょっとムカついてしまった。デンク、また逃げられちゃったよ〜。巳之助君はクールな演技という印象が強いが、今回もまさしく、もう少し奥深い温かみや人情味を演技に出してくれれば、最後の印象も違ったでしょう。また5年後ぐらいに同じ配役で上演して欲しいですね。

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