国立能楽堂で「10月特別企画公演」を拝見しました。
配役
狂言『菊の花(きくのはな)野村萬(和泉流)』
とても不思議な話、勝手にどこかに行ってしまい怒られる太郎冠者、京での様子を語る際、雀に対し、烏が「こ〜か〜」と鳴いていたことから親子と間違えるのは面白い。もらった菊の花を頭に挿していると女中に和歌を読み掛けられ、上手に返歌ができたことから気に入られ祇園に連れていかれる。結局、その場で粗末に扱われ、あげくに「緒太の金剛」草履を盗んできてしまうという、珍しくどうしようもない太郎冠者。最後は主人と太郎冠者の「え〜い」「は〜っ」で終わる本当、何を伝えたかったのかわからない不思議な話。菊の花が後半全く出てこないので、太郎冠者の返歌から取った大蔵流の「茫々頭(ぼうぼうがしら)」という名前の方がしっくりくるかも。
能『檜垣(ひがき)金剛永謹(金剛流)』
老女物の中で秘曲とされる演目、国立能楽堂では20年ぶりの上演だそう。舞台中央にに檜垣つきの藁屋の作り物。前半は少し眠くなってしまいましたが、後半は素晴らしい。途中の山下の者の話によると「みずはくむ」とは、抜けた歯がまた生える、という意味もあるそう。後半、作り物の中で着替え登場するのも流れが途切れず良い。「風緑野に収つて 煙条直し 雲岸頭に定まつて 月桂円なり」の詞章がとても流麗で情景が舞台上に浮かぶ。その後の僧とのやり取りはなかなかシビアですが、会話劇っぽくて理解しやすく、檜垣女の動作も、能としては詞章と関連している気がする。面は「小町老女」という小野小町の年老いた姿を写したというもの。全身白みのある衣装と相俟って、不思議な表情が凄まじく、哀れにも儚くも美しくも見える。華やかな生活も一夜の夢、水に写る自分の姿を見て愕然とする様、その純粋さに心を打たれます。藤原興範に請われ嫌嫌舞った過去を反映して、おそらく今回の舞は成仏を願って一心に舞ったもの。立ち姿が堪らなく崇高。太鼓の山本哲也さんの気迫も凄かった。今日の面は前シテが「檜垣姥(千代若作)」、後シテが「小町老女(洞水作)」でした。2年前に拝見した「姨捨」と今回の「檜垣」、老女物は好みかもしれません。
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