銕仙会 新作能『ヤコブの井戸』座・高円寺1

銕仙会 新作能『ヤコブの井戸』座・高円寺1
新作能を拝見するのは「空海」以来二度目でしたが、今回のものは非常に現代的でかなり意表をつかれました。先日拝見した『三輪』に続き、個人的には非常に難解。舞台は一応能舞台の形になっており、四隅の柱は斜めに吊られ台形に配置、鏡板には松の代わりに抽象画、作り物にオリーブの枝を付けた井戸を使用しています。井戸に水桶、作者のディートハルト・レオポルドさんは『井筒』を見たのかな。

配役
前シテ パレスチナの女:清水寛二
後シテ サマリアの女:清水寛二
ワキ 教師を退職したイスラエルからのユダヤ人(ラビ):殿田謙吉
アイ ロシアから来たユダヤ人移民:小笠原弘晃
アイ 村の猫:みょんふぁ
笛:松田弘之
小鼓:飯田清一
大鼓:白坂信行
地謡:西村高夫、柴田稔、小早川修、北浪貴裕、長山桂三、谷本健吾、安藤貴康
後見:観世銕之丞、観世淳夫

「ヤコブの泉」とも呼ばれる「ヤコブの井戸」はパレスチナのナーブルスの町はずれある井戸で、ユダヤ教の聖地とも。新約聖書、「ヨハネによる福音書」の中のサマリア人の女とイエス・キリストの話がモチーフとなっていますが、能が平家物語や源氏物語から着想を得ているのと似ているのかも。

前シテは戦争で息子をテロで娘を亡くして感情をなくしたパレスチナの女、後シテはイエスに水を与えたと思われるサマリア人の女(亡霊?)、2種類の面(前シテは老女、後シテはチラシに掲載されている若い女)は、この演目のために新しく作成したエキゾチックなお顔立ち。アイのユダヤ人移民は基本的に普通に話すし、女が普通に笑ったりするのはかなり違和感がある。間狂言の村の猫の独白は難しいな〜。客席も笑っていいのかどうか持て余している感じがして、ちょっと見ていて辛くなりました。当初の予定通り外国の方が演じてたらまた違っただろうに。猫2匹とか猫と犬との掛け合いの方が面白いのでは。ワキがキリスト、アイが一般人を連想させますが、前半から後半にかけてのユダヤ人移民の心変わりが唐突。戦争、水の奪い合い、宗教や民族間の対立、そして無償の愛などかなり詰め込んだ内容、人生最後の日、相手を殺すか平和を与えるか、少し説教臭さも感じてしまいました。

キリスト教の世界観が身に付いていないこともあり、かなり難易度の高い演目でした。普段お能を見慣れていない方の目にはどう映ったのか気になるところ、演出家の佐藤信さんとシテを勤めた清水寛二さんによるポストトーク「能の演出」は興味深く拝聴いたしました。色々制約が多く、新作を作るのが難しそうな能楽ですが、新作能が上演されたら必ず拝見してみたいです。

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