『カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ著 白水Uブックス

『カモメに飛ぶことを教えた猫』ルイス・セプルベダ著 白水Uブックス
TOKYO FM日曜10時から放送の「パナソニック メロディアス ライブラリー」で紹介されており、 即購入。作家の小川洋子さんが解説を務める大好きな番組。紹介されている本はなるべく購入したいのですが、キンドルで販売されてないものも多いのが残念。

1500ページの戦争の本を読んだ後だったので、短さとわかりやすさにめっちゃ癒されました。30分で読めます。初めて知った著者ルイス・セプルベダはチリの作家。写真を拝見すると怖そうなお顔ですが、こんな優しい物語も書けるんですね。なぜなら見た目と中身は関係ありませんので。社会主義活動のため900日以上も投獄された経験もあるそうで、本を読むと知的な方というのがよくわかります。

物語をもの凄く単純に説明すれば、カモメの子供「フォルトゥナータ」を卵の状態から飛び立つまで、親代わりとなった黒猫が奮闘するもの。主人公の黒猫「ゾルバ」「大佐」「秘書」「博士」「向かい風」の5 匹の猫が活躍します。嵐の中を遭難してカモメの群れを見つけたことで命が助かった「向かい風」、日本の古い漁師もカモメの動きから魚の動きを把握すると言いますからカモメって人間にとっても大事な鳥なんですね。

博士の住んでいる展示館「ハリーの港のバザール」のコレクションが面白い。「世界一周しなけてならないプレッシャーにめまいを起こしてとれた船の舵160個」「実物大の木製のゾウ6個」「愛の物語にだけ出演していたスマトラ島の操り人形1300個」「47ヶ国語にわたる小説5万4000冊」「伝統的な遭難事故の音がはるかかなたから響いてくる巨大な貝殻7個」そしてそのほか、まだまだたくさん。入場料2マルク(150〜200円くらい)、行ってみたい!

印象に残ったのは、ゾルバが「タブーを破る」くだり。そのタブーとは「人間のことばを話してはならない」というもの。理由は「人間は自分と異なるものを理解し合おうとしなから」。カモメが飛ぶためにゾルバが頼る人間は詩人、「詩人はことばとともに飛んでいる」から飛び方も教えられるという理由がすごく良い。そして詩人と仲良くなるために、しっぽをエレキギターに見立て、シャウトする太ったゾルバがもの凄く素敵。機知に飛んだ勇気のある黒猫です(人間語もほとんどの言語が話せる)。

猫やカモメ、チンパンジーたちの愛嬌のあるコミュニケーションが楽しく短い物語ですが、カモメの母親「ゲンガー」が羽に石油が付着したことで死んでしまったように環境汚染、様々な差別という問題も提示しています。「百科事典の『お』の巻は『汚染』ということばだけで埋まってしまう」という台詞は心が痛みます。

挿絵の水彩風のカモメとか猫もとてもチャーミング。原題の「Historia de una gaviota y del gato que le enseñó a volar」で検索するとアニメっぽい画像が色々でてきてこれも可愛い。犬と違って猫は何を考えているかわからないところが想像力を掻き立てます。人間語を話せたとしてもさほど驚かないかもしれません。劇団四季の『カモメに飛ぶことを教えた猫』もいつか見てみたいです。子供から大人まで楽しめる素敵な一冊でした。

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