令和元年10月歌舞伎公演「通し狂言 天竺徳兵衛韓噺」国立劇場 大劇場

通し狂言 天竺徳兵衛韓噺
四代目鶴屋南北の出世作「天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)」、今回20年ぶりの通し上演です。一番の見所である大蝦蟇の屋台崩しなど、カエルとヘビがいっぱいでてくるというチラシ裏を見ているだけでワクワクするお話ですが、実際はいかに。

配役
天竺徳兵衛/座頭徳市/斯波左衛門:中村芝翫(成駒屋)
梅津掃部:中村又五郎(播磨屋)
梅津奥方葛城:市川高麗蔵(高麗屋)
山名時五郎/奴鹿蔵:中村歌昇(播磨屋)
銀杏の前:中村米吉(播磨屋)
佐々木桂之介:中村橋之助(成駒屋)
石割源吾/笹野才造 :中村松江(加賀屋)
吉岡宗観/細川政元:坂東彌十郎(大和屋)
宗観妻夕浪:中村東蔵(加賀屋)

序幕「北野天満宮鳥居前の場」
蛇使いの段八がボコボコにされるところから幕、物語の何かを予感させる始まり。愛し合う「佐々木桂之介」と「銀杏の前」の2人が、佐々木家来の「石割源吾」と銀杏の侍女「袖垣」の手引きにより逢引きする場面。佐々木家が将軍により宝剣「浪切丸」の管理を任されていることもわかります。

中村橋之助の桂之介の男振りが素敵!涼やかでとても上品な優男。中村米吉の銀杏の前とはベストカップル賞を送りたい!米吉君相変わらずお可愛いです。この話、舞台装置に凝りすぎたためか、ストーリーがちと分かりにく(分からなくても楽しめるが)。佐々木家来の石割源吾は実は悪い奴、おそらく後ほど出てくる「吉岡宗観」の息がかかっていたものと思われます。

「別当所広間の場」
「浪切丸」が本物か鑑定する場面。願力のある物に渡したいということから三腰用意されています。鑑定しようとすると一腰盗まれていますが、蛇使い段八が現行犯で捕らえられます。ただ三本全てが偽物という悲しい事実が判明。さらに銀杏父の「梅津掃部」の前で桂之介の恋的「山名時五郎」に桂之介と銀杏の前の不義を暴露され、佐々木家大ピンチ。

中村歌昇の山名時五郎の滅茶わかりやすい悪ぶりが良い。本当憎らしい奴!中村又五郎の梅津掃部の頭の切れぶりを徐々に発揮。ここで休憩ですが天竺徳兵衛なかなか出てきません!

「二幕目 吉岡宗観邸の場」
吉岡宗観邸は襖に南国の木が描かれているなどエキゾチックな様子。宗観邸に預けられた桂之介の気晴らしに、近くの港にたまたま流れ着いた天竺帰りの徳兵衛が呼び寄せられます。その後話がどんどん展開。吉岡宗観が徳兵衛の実父であることが明かされ、桂之介と銀杏の前を逐電(逃亡)させた罪と浪切丸紛失の罪で切腹。なんやかんやありついに大蝦蟇登場!

徳兵衛の衣装は南国というよりはアイヌっぽい柄、髪は茶髪の天パで異国風。徳兵衛の旅の模様の語りも見所「沖縄ちゅら海水族館→国立劇場おきなわ→ハワイオアフ島ワイキキビーチ→クイーンエリザベスで天竺へ」途中で8代目芝翫一家ネタ、酸っぱいインドスパイスつながりでナイルレストランも出てきて楽しい。囃子も場所に合わせて変わります。桂之介君と銀杏の前はこの段でお別れ、下手にハケる桂之介を名残惜し気に振り返るいじらしい横顔が最高。米吉君、今日も極上の癒しをありがとう!切腹とか筧(地上から水を引く木の樋)に登ろうとした蛇が真っ二つになる(この中に浪切丸が隠されているため)とか切腹とか石が蛙になったりとかドタバタ展開は目が離せません。あんなに陽気だった徳兵衛のキャラ変(髪型も変わる)も凄いね。最後は迫力のある大蝦蟇の屋台崩し!煙(火)を吹く大蝦蟇(思ってたより小さかった)、目がぱちくりで不気味だけど釘付け!

「裏手水門の場」
続いても水門からのたくった蛙が大活躍。赤々として口中を覗かせながらばったばったと花四天(はなよてん:捕り手)をやっつけていきます。最後は蛙が徳兵衛に変わり、蛙が水を掻くような動きがユニークな「水中六方」ではけ。国立は3階(二等B席)からでも花道よく見えて良いです(椅子の座り心地はよくないのだが)。徳兵衛の登場もあり二幕は歌舞伎らしい外連味たっぷりで一番楽しい雰囲気。二幕目の蛙を見て帰る方もちらほら。

「大詰 梅津掃部館奥座敷庭先の場」
ここからも話がやや複雑。梅津の奥方「葛城」の出、「招ぐ蝶 尾花がもとの 思いくさ 朽ちなば朽ちよ 袖のしずくに 」の句、葛城が巳の年、巳の月、巳の日生まれというのが重要ポイント。坂東彌十郎二役目の上使(将軍家からの使者)細川政元がやってきて追い込まれる梅津掃部。座頭に化けた徳兵衛の木琴の剽軽な演奏が楽しい。

ちなみにここで歌われる「かねて手管とわしゃ知りながら 口説き上手に惚れこんで 騙されて咲く室の梅」は江戸時代に名古屋熱田の花街「神戸(ごうど)」で、生まれた都々逸「神戸節」、「天竺徳兵衛韓噺」初演の1804年少し前に誕生したもので、作者の鶴屋南北が流行りを取り入れたと思われます。三代目尾上菊五郎が絶世の歌い手だったそうです。勉強になります。

座頭は切れ者の梅津掃部を消しに来たと思われるのですが、蝦蟇仙人の画を使った引っ掛けですぐに見破られて(意図的に)、館前に設えられた泉中に消え、早替わりで2人目の上使(将軍家からの使者)となって再登場。葛城の命を掛けた徳兵衛へのくどき。愛の証拠と小指を切った血を掛けられ、正体を表す徳兵衛。さらに梅津に妖術の源となっていた蛙千匹の血を注いだ浪切丸も奪われ大ピンチで幕となります。

おそらく端折っている部分も多いと思われ、台詞も7割くらいしか聞き取れないのでで、初見で物語を完全に理解するのは困難。ただ、理解できなくても楽しめるようには作製されています。芝翫さんもお人柄のためか、どうしても大悪人には見えないし、60歳越えの葛城役高麗蔵さんの口説きはなかなか見ていて辛いものがある。。。とはいえ鶴屋南北の奇想天外荒唐無稽さが発揮されており、大変楽しめました。これで2千円ちょっととはコスパも最高です。

私は文楽以外「筋書、プログラム」は購入しないのですが、今回「台本」なるものが550円で販売されているのを発見!これぞ欲しかったもの!付録で語彙集まで付いており大変参考になります。素晴らしい、歌舞伎座でも販売してくれませんか。徳兵衛が旅の様子を語る台詞はアドリブが多いのかと思っていたら一応決まっているのも面白い。3日目の大変さが伝わりました。「ワイキキで皆裸に近い格好で水浴びしたり」という台詞の「裸に近い格好」を「褌」ってだいぶ短縮して仰ってたのは笑った。

いつもの二等B席で見ようと思っていたら、何故か間違えて三等席を購入してしまいましたが、11月の「孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)―日向嶋―」も楽しみしております!

コメント

  1. […] 観賞 一.「通し狂言 天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)」国立劇場 大劇場 二.「柳家権太楼 独演会」深川江戸資料館 小劇場 三.「芸術祭十月大歌舞伎 夜の部」歌舞 […]

タイトルとURLをコピーしました