壽 初春大歌舞伎 夜の部『義経腰越状』『連獅子』『鰯賣戀曳網』歌舞伎座

壽 初春大歌舞伎 夜の部
2020年の歌舞伎初めは歌舞伎座「壽 初春大歌舞伎 夜の部」からです。笑いあり涙あり、正月らしい3本でとても楽しめました。

1本目は『義経腰越状(よしつねこしごえじょう)五斗三番叟』から。

配役
五斗兵衛盛次:松本白鸚(高麗屋)
九郎判官義経:中村芝翫(成駒屋)
亀井六郎:市川猿之助(澤瀉屋)
伊達次郎:市川男女蔵(瀧野屋)
錦戸太郎:松本錦吾(高麗屋)
泉三郎忠衡:中村歌六(播磨屋)

初めて見る演目、『五斗三番叟』は1754年初演の浄瑠璃『義経腰越状』の三段目口の通称。頼朝(家康)を鉄砲でねらい撃つくだりが幕府から禁じられたので三段目までとなったらしい。全体のストーリーが検索しても出てこないので、今日の部分だけみても理解できない部分が多いですが、理解できなくても楽しめる演目でした。

まずは市川猿之助さん演じる亀井六郎の出、「よいせよいせ、ありゃりゃんりゃん・・・」と太鼓に合わせた雀踊り(仙台名物?五斗兵衛は後藤又兵衛の暗示、又兵衛が最後、仙台藩伊達家の家臣に討たれたことの暗示?)の奴との威勢のよい立ち回りが気持ち良く、歌舞伎らしい。遊興に耽る義経を説得しようとするも、歌六さん演じる泉三郎に諭され退散。歌六さんナウシカの時も思ったのですが、声量もう少し欲しいっす。泉三郎と敵対する赤っ面の伊達次郎、錦戸太郎兄弟、泉三郎が軍師として呼び出した五斗兵衛を酒でぐでんぐでんにしてやろうと企みます。最初は頑として酒を拒否していた五斗兵衛も、酒を美味そうに飲む兄弟につられて手を出したらもう止まりません。大盃に両方から酒を注がれながら飲み干す「滝飲み」はお見事。「胸の涼しくなる」という味の表現が素敵。お酒の名前は「一本義」と言ってましたが、福井の酒蔵「一本義久保本店」と関係あるのかしら?見てると日本酒飲みたくなります。こういう愛嬌のある憎めないお役の白鸚さん、良いです。兄弟にぐるぐる回されたりして、敢えなく、ぐでんぐでんの態となり大盃を枕に寝てしまう五斗兵衛、「六韜三略とは?」などという兄弟の兵法に関する問いにも全く答えられず、義経に怒りを買ってしまい、呼び寄せた泉三郎も追い込まれた様子。しかし泉三郎の引っ込みの際、刀をカチリと鳴らすと、それに即座に反応する五斗兵衛。やはり出来る男だというのが示されます。

そして五斗兵衛を追っ払おうと10人の面白顔の竹田奴が登場。大盃を見て一つ目お化けだ!とびびる奴、その後、五斗兵衛が目貫師(目貫=刀の目釘、握る部分の装飾)と聞いて目が抜かれるとさらにびびる奴が可愛。五斗兵衛は烏帽子を被り「おおさえ、おおさえ」と一番の見所三番叟、小鼓、笛もお囃子に加わります。しかし三番叟よりも奴を紙相撲、凧、金魚掬いに見立てやり込めていくのが面白い。最後は角樽を馬の頭に見立て奴に乗って引っ込み。泉三郎の後を追います。67分は長いかなと感じたのですが、あっという間の楽しい演目でした。

続いて澤瀉十種の内『連獅子』、11月も幸四郎親子のもの、12月のナウシカでも連獅子的なものを拝見したので、気分はそれほど乗り気ではなかったのですが、ごめんなさい。久々に感動した連獅子でした!

配役
狂言師右近後に親獅子の精:市川猿之助(澤瀉屋)
狂言師左近後に仔獅子の精:市川團子(澤瀉屋)
僧蓮念:中村福之助(成駒屋)
僧遍念:市川男女蔵(瀧野屋)

今日は何故か長唄の詞章もよく聞き取れました。初めて見る大人になった團子君、猿之助さんの舞はとても好きなのですが、團子君も体幹がしっかりしている印象。何より素晴らしいと思ったのが、2人の連携。練習の成果か、絆の問題か、本当の親子より良いのでは?コンビネーション最高で、狂言師の舞のところから早、泣きそうになりました。危ない危ない。そして蝶々の動きもいつもよりヒラヒラ感があってよかった。棒の素材が改良されたんでしょうか。危なげない宗論を挟んで、獅子の舞へ。二畳台を3つ重ね石橋に見立てる演出も面白い。毛を矢鱈にぶんぶん振り回す激しいものではありませんでしたが、能の『石橋』にも通ずる、気品のある毛振り。そして白と赤、2人の息も本当にぴったりで見ていて清々しく美しい!3階A席で見ていたのですが、連獅子は上方から見た方が綺麗かも。う〜ん、素晴らしかった!

3本目は三島由紀夫作の新作歌舞伎『鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)』です。江戸寛文年間(1661‐73)に編纂された『御伽文庫』の中の一編『猿源氏草紙』が元ネタ。歌舞伎では珍しく純粋なハッピーエンド、笑いがいっぱいの楽しい作品。それほど気を入れて見る作品ではないというか、ゆるゆると見た方が楽しめると思い、普通買わない缶ビール(プレミアムモルツ)を購入。1時間かけて1本飲み干す、これ正解。

配役
鰯賣猿源氏:中村勘九郎(中村屋)
傾城蛍火実は丹鶴城の姫:中村七之助(中村屋)
博労六郎左衛門:市川男女蔵(瀧野屋)
庭男実は藪熊次郎太:中村種之助(播磨屋)
禿:中村長三郎(中村屋)
傾城春雨:市川笑三郎(澤瀉屋)
傾城薄雲:市川笑也(澤瀉屋)
亭主:市川門之助(瀧乃屋)
海老名なあみだぶつ:中村東蔵(加賀屋)

「五条橋の場」からスタート。蛍火に恋して腑抜けになった猿源氏登場、勘九郎さん、軽妙なお役はとてもお上手。デレデレ顏が似合います。飄々とした父なむあみだぶつ役の東蔵さんの莞爾としたほのぼの感が素敵。男女蔵さんも出ずっぱで大活躍ですね。大名の宇都宮弾正に化けて蛍火に会いに行く一同。「東洞院の場」に移り、七之助さんは下がり気味メイクでとてもお綺麗、個人的には垂れ目系のが好きなのです。遊郭の三三九度の件では長三郎君の実父を見る冷たい視線もグッド。傾城たちに合戦の様子を聞かせてとせがまれ困る猿源氏、義太夫に助けを求めるなどといったくすぐりも面白く、鯛の赤助と鮃の大介、蛸の入道の合戦パートも愛嬌たっぷり、所作もわかりやすくて楽しいです(元ネタは御伽草子精進魚類物語の中の魚島平家、原作読んでみたい!)。鰯売りの掛け声の寝言を蛍火に問い詰められた時の歌に絡めた言い訳も面白い、「日の本に はやらせ給ふ 岩清水 まゐらぬ人は あらじとぞおもふ」、鰯を肴に日本酒飲みたいわ。最後は皆で「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かうえい」と鰯売りの掛け声の練習。阿漕は地元の三重県津市の地名なので、親しみも湧きます。最後は2人はしっかり結ばれ、大変お目出度い一幕。兄弟と思えない仲良しぶりに和みます。今度は重厚なお役の勘九郎さんも拝見してみたいですね。後味もよく心も晴れる正月の夜でした。

コメント

  1. 蘭鋳郎 より:

    白鸚初役の五斗兵衛、見に行けなかったのですが、舞台が彷彿とする文章でよくわかりました。ありがとうございます。
    白鸚は染五郎時代に二世松緑の五斗兵衛で義経に付き合っているので、いつかは演じてみたいと思っていたのでしょうね。
    十二代目団十郎亡くなって五斗兵衛の演じ手が途絶えるのではと心配していましたが、これで一安心。五斗兵衛は芝翫から当代松緑へ伝承されるのでしょうね。

    • myosotis より:

      こんにちは。コメントありがとうございます。
      二世松緑というと40年くらい前でしょうか。私は映画でしか拝見したことないですが、あの空気感、五斗兵衛にぴったりですね!
      五斗三番叟自体、上演は15年ぶりのようですね。物語として特別な内容の無く、酒で酔っ払って踊り出すだけの話で時間を持たせるのは、人物が大きくないと難しいのかもしれません。今回の白鸚さん、素晴らしかったです。
      歌舞伎の要素が沢山詰まった演目なので、おっしゃる通り、若い人達のためにも、伝承されていくことを望みます。
      今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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