十月大歌舞伎 第一部『天竺徳兵衛新噺 小平次外伝』『俄獅子』歌舞伎座

十月大歌舞伎 第一部『天竺徳兵衛新噺』『俄獅子』歌舞伎座
「十月大歌舞伎 第一部」を拝見しました。一本目は三代猿之助四十八撰の内『天竺徳兵衛新噺(てんじくとくべえいまようばなし)小平次外伝』、この話、天竺徳兵衛はほとんど関係なく(関係はありますが出ません)、『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』の作者でもある四世鶴屋南北の『彩入御伽草子(いろえいりおとぎぞうし)』の二幕目までがベースになっています。この話は怪談『木幡小平次』と『播州皿屋敷』を組み合わた南北らしい趣向に富んだ内容。

配役
小平次/女房おとわ:市川猿之助(澤瀉屋)
馬士多九郎:坂東巳之助(大和屋)
妹おまき:中村米吉(播磨屋)
奴磯平:市川男寅(瀧野屋)
百姓正作:嵐橘三郎(伊丹屋)
庄屋満寿兵衛:市川寿猿(澤瀉屋)
小佐保天南:市川猿三郎(澤瀉屋)
尾形十郎:尾上松也(音羽屋)

神田松之丞(現伯山)さんの講談で『木幡小平次』を聞いたことがありますが、小平次と女房の浮気が一緒なだけで内容は全く違います。事前に『彩入御伽草子』の台本も読みましたが、台詞もかなり忠実。原本では牟礼一角照光が尾形十郎、今川家が菊地家、「雌雄の龍印」が「浪頭の鏡」になっていたりしますが、内容は簡略化され分かりやすくなっています。

除幕「山城国蛍ケ池の場」から。馬士多九郎がいきなり小平次女房おとわと良い仲になっており、小平次を殺そうとしている。馬が草食べていたり、ちゃんと演技しているのが素敵。3日連続で父の夢を見たため心配で廻国から帰ってきた小平次、色々あっていきなり殺されますが、木でボコボコにされ、池に沈められる。なかなか死なないしつこさは執念の現れでしょう。おとわの止めのさせかたがとても残酷、合口で刺した挙句、薬指と人差し指を切っちゃうのは、指が重要となる原作を生かしてのことか。尾形十郎が登場し、だんまりがあり、花道からはけるおとわを、既に亡霊となった小平次が追っていきます。

二幕目は「木幡の里小平次家の場」、尾形十郎が歌う「我が駒を しばしとむるか 山城の 木幡の里に ありと答えよ」は源俊頼の歌を一時変えているのか(しばしとかるか→しばしとむるか)。ここは小平次妹おまき役の米吉君が大活躍!おとわに悪婆と面と向かって言っちゃう気の強さ、瞬時に十郎に惚れてしまう純粋さが可愛く、兄のために頑張って魚(原作では鮎)を焼いていたのに、死んだと聞いても、恋のが大事という言ってのけるのが凄い。おまきが裏に縄で繋がれてからは、猿之助さんの独断場、完全に笑わせにいってる。長い裾?足?が蚊帳にぬるぬる吸い込まれていくのは怖い。最後は小平次の力により男の力を得たおまきが多九郎を叩きのめし、鏡も十郎の手に渡り、おとわの首も切り落とし、上空にふわふわ、成仏して下さいまし。猿之助さんの早い台詞回しと早替わりは素晴らしかったですが、米吉君の大活躍が嬉しい。もうちょっと大げさにやっても面白かったと思いますが、堪能させていただきました。いつの日か米吉君に舞台で「びびびびび」されるのが夢です。

二本目は長唄連中による舞踏劇『俄獅子(にわかじし)』。

配役
鳶頭:尾上松也(音羽屋)
芸者:坂東新悟(大和屋)
芸者:市川笑也(澤瀉屋)

花と見つ 五町驚かぬ人もなし なれも迷ふやさまざまに
四季折々の戯れは 紋日物日のかけ言葉
蝶や胡蝶の禿俄の 浮れ獅子
見返れば花の屋台に見えつ隠れつ色々の 姿やさしき仲の町
心づくしのナその玉章も いつか渡さん袖のうち 心ひとつに思ひ草 よしや世の中
狂ひ乱るる女獅子男獅子の彼方へひらり 此方へひらりひらひらひら
忍ぶの峰か襲夜具 枕の岩間瀧つ瀬の 酒に乱れて足もたまらず 他処の見る目も白波やヤア秋の最中の月は竹村 更けて逢ふのが間夫の客ヨイヨイ
辻占みごと繰り返し 何故このように忘られぬ 恥ずかしいほど愚痴になる
というちやア無理酒に なんでもこっちの待ち人恋のナ恋の山屋が豆腐に鎹 しまりのないので ぬらくらふらつく嘘ばかりヨイヨイヨンヤナ
宵から待たせてまた行かうとはエエあんまりなと膝立て直し
締めろやれ たんだうてやうて 打つは太鼓が取り持ち顔か 拗ねて裏向く水道尻に
お神楽蕎麦なら少し延びたと囃されて ちんちん鴨の床の内 たんたん狸の空寝入り つねった跡のゆかりの色に うって変った仲直り あれはさよい声かけヤよいやなしどもなや

人目忍ぶは裏茶屋に 為になるのを振捨てて 深く沈みし恋の淵
心がらなる身の憂さは いっそ辛いぢやないかいな
逢はぬ昔が懐かしや 獅子に添ひてや戯れ遊ぶ 浮きたつ色の群がりて 夕日花咲く廓景色  目前と貴賤うつつなり
暫く待たせ給へや 宵の約束今行くほどに 夜も更けし
獅子団乱旋の舞楽もかくや 勇む末社の花に戯れ酒にふし 大金散らす君達の 打てや大門全盛の 高金の奇特あらはれて 靡かぬ草木もなき時なれや 千秋万歳万々歳と
豊かに祝す獅子頭

舞台は吉原、鳶頭と鳶達の、威勢のよい傘を使った立ち回りから始まります。芸者2人が花道から登場。歌詞は吉原での男女の戯れ、扇を獅子と蝶に見立てての舞が楽しい。「人目忍ぶ」からの切ないな詞章ではおかめ、ひょっとこのお面を付け、逆におちゃらけて。20分が丁度良い華やかな一幕でした。シャープな顔立ちの笑也さんの艶やかさ、やっぱり好きだな。来月の「吉例顔見世大歌舞伎」仁左衛門さんの連獅子も楽しみです!

コメント

タイトルとURLをコピーしました