令和2年2月文楽公演 第二部『新版歌祭文』『傾城反魂香』国立劇場

令和2年2月文楽公演『新版歌祭文』『傾城反魂香』
令和2年2月文楽公演第一部に続いて第二部『新版歌祭文』『傾城反魂香』を拝見しました。

配役表
『新版歌祭文』『傾城反魂香』配役表

1本目は『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん) 野崎村の段』です。落語の「蛇含草」でも「お染久松夫婦食い」という餅の曲食が出てくるなど、伝統的な心中物ですが、拝見するのは初めてです。二段構成で「野崎村」は上段の後半に当たります。最初に登場する三味線を持った本売りの繁太夫節とは、宮古路豊後掾の弟子宮古路繁太夫が1740年頃、大坂で創始した浄瑠璃。豊後掾没後に豊後節から独立、ちなみに歌舞伎で多様される常磐津、清元は豊後節から派生したもの。劇中の太夫を実際の太夫と三味線が演じ、しかも本売りが売っているのは「お夏清十郎」という文楽『五十年忌歌念仏』 (1709上演)などに登場する悲劇の二人という幾重にもなった構成が面白い。ちなみに『新版歌祭文』は1780年初演です。

続いて油屋の「久三(きゅうざ)の小助」が久松を連れて登場。色々あって最後に門口柱に頭をぶつけ「ああ痛し」というところから「あいたし小助」と呼ばれる場面、笑いが起きそうな、くすぐり所はいくつかありましたが、それほど面白いとは思えなかった。。。続いて久松の親久作が妻の連れ後のおみつと久松の祝言を発表、恥ずかしながらもウキウキのおみつが良い。大根(本物)で膾を作り始めますが、雑です。歯の部分はぽいっと捨てちゃいます。久松を追ってきた油屋の娘お染が登場。手毬や折り鶴模様の鮮やかな紫地の振袖姿のお染と、緑の石持(こくもち)姿のおみつの対比が鮮明。おみつの悋気の仕方が可愛くてたまりません。鏡に映ったお染を撫棒(髪を揃える棒)で突いたり、大根をぶった切ったり、入り口を開けた瞬間に箒が倒れるように細工したり。そんな努力もむなしく結局良い感じになるお染久松ですが、久作のお夏清十郎を持ち出した説得によりなんとか説得。しかし、祝言用の着物で現れたおみつの綿帽子を取ると、髪は切られ、尼姿に。もうちょっと頑張っても良かったのではと思うが、久松と結婚してもきっとお染の所に行ってしまうと思ったのでしょうね。今なったばかりですが、おみっちゃんファンには辛いです。「さらばさらばも遠去かる舟と、堤は距たれど、縁を引網一筋に、思ひ合うたる恋仲も、義理の柵、情けの枷杭、駕籠に比翼を引き分くる心々ぞ、世なりけり」、最後は風景が変わり、後ろの堤には籠で行く久作、手前の川には舟で行くお染が乗っています。最後は船頭大活躍!舟から落下してバタフライで帰ってきたり、川に落ちた竿を足でお器用に拾ったりと人形ならではのコミカルシーンで終了。切りの語りは人間国宝の豊竹咲太夫さんなのですが、ちょっとお声が聞こえにくいような。声が大き過ぎても一本調子になっちゃうし、三味線とのバランスもあるし、難しいものですね。

二本目は竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫襲名披露狂言『傾城反魂香(けいせいはんごんこう) 土佐将監閑居の段』、通称「吃又(どもまた)」。絵師による不思議が色々起こる楽しい演目です。最初は修理之介が、狩野元信(この段では出てきません)が血で描いた虎を筆で打ち消すのが見所。虎ちゃんは顔だけしか出てこないんですね。牙がえぐいですが、日本に虎はいないので、本物を見ずに描いているから仕方無し。目出度く修理之介は、土佐光澄の名を与えられます。最後の百姓たちの「おやまを沢山書いて金儲けさせて」とか「借銭帳の借金消して」とか言うのが切実ながらも楽しい。

続いて六代目竹本錣太夫さん襲名口上、錣太夫はなんと80年ぶりの名跡だとか。豊竹呂太夫さんの、六代目鶴澤寛治さんから稽古を受けていた際の錣太夫さんの失敗エピソード「御居処(おいど)をめくる」に爆笑。これぞ緊張の緩和。襲名はやっぱり気分が上がります。

ここから主役の又平登場、あぐら鼻に離れた垂れ目、上下にクイクイ動く活発な眉尻と完膚無き三枚目ですが、愛嬌のあるお顔立ち。「土佐将監閑居の段」はとても分かりやすい話ですが、又平の吃りとか、特徴的な登場人物も多いので語るのはとても難しいのでは。しかし「吃り」「かたわ」とか放送禁止用語がばんばん出てくる文楽恐るべし。又平に対し口が達者な女房おとくの軽妙な喋りが楽しいです。窮地に追い込まれた又平が手水鉢を墓石に例え描いた自画像が突き抜ける場面は、なるほど、そういう演出か。又平夫婦による大頭の舞(だいがしらのまい、幸若舞の一流派、創始者は幸若丸直詮、土佐将監のモデル土佐光信の描いた人物画が残っている)に続き、師匠の土佐将監が手水鉢を名刀でぶった切ると又平の吃りがすっかり治っちゃうハッピーエンド。最後の吃りが治る部分は改作ではありすが、一発逆転の又平に勇気付けられる方も多いお話のでは。現代まで愛されている理由がわかります。最後の又平のダイナミックな喜びの舞は凄かった。桐竹勘十郎さん、狐でお馴染みの大きな動きもできるし一番脂が乗っている時期なのではないでしょうか。素晴らしい。まず上演されることは無いと思われますが、通しで見てみたい演目です。

能と歌舞伎とか別の芸能の連続見はよくありますが、文楽を二部連続で見るのは初めて。感情がおっつかないので一部ずつ見るのが良いと感じました。第一部が良すぎたかな。来週拝見する第三部 『傾城恋飛脚』『鳴響安宅新関』もとても楽しみです!

※『梁塵秘抄』を読んでいるとこんな歌を見つけました。「瑠璃の浄土は潔し 月の光はさやかにて 像法転ずる末の世に 遍く照らせば底もなし(法文歌・仏歌・三四)」、正に浄瑠璃。人形「浄瑠璃」が薬師如来の願掛けにより授かった子ども浄瑠璃姫から来ていることは有名です。薬師如来の浄土ははるか東方にあり、瑠璃で出来ているため浄瑠璃浄土と呼ばれているのだとか。ちなみに薬師如来の脇侍は月光、日光遍照菩薩。伝統芸能の伝統を強く感じます。

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