令和3年2月文楽公演 第三部『冥途の飛脚』国立劇場

令和3年2月文楽公演 第三部『冥途の飛脚』国立劇場
今年の文楽初めは『冥途の飛脚』から。丁度昨年の2月文楽公演で『冥土の飛脚』の改作である『傾城恋飛脚』を拝見していますが、上演段が全く違い、今回は最後の「新口村の段」は無し。

配役
令和3年2月文楽公演 第三部『冥途の飛脚』国立劇場

まずは飛脚屋の日常が垣間見れる「淡路島の段」から。不覚にも前半は眠たくなってしまいました。忠兵衛が、養母妙閑の目を欺くため、鬢水入れを五十両に見立てる件は、思ったよりあっさり、これ筋を知らない人は理解できるのかな。八右衛門の出鱈目の手紙も笑える場面なのですが、それもなく寂しい。舞台背景が変わり、堂島の屋敷に三百両を返しにいくはずの忠兵衛が、知らないうちに梅川のいる新町に向かってしまう。この場面は見所。「いて退けういて退けう」「おいてくれうおいてくれう」の繰り返しは、織太夫さんが好きそうな特徴的な語り。もう完全に気が触れているとしか思えません。犬に吠え掛かられるのも当然か。飯炊きの「まん」に対する扱いなど、忠兵衛の下衆っぷりが発揮される段です。

続く「封印切の段」、女郎たちが集う越後屋は、床本を事前に読んで想像していたより立派な設え。遊女たちが遊んでいる拳遊び「本拳」は興味深いく、小さく可愛い三味線を弾きながら禿が語る浄瑠璃も近松門左衛門の『夕霧三世相』の一部で切ない詞章。ほとんど台詞はありますが、越後屋女主人の花車がなかなか良い味出してます。髪も帯も乱れ、その場の感情に流されまくる見栄っ張りの忠兵衛に対し、梅川は落ち着いています。しかし忠兵衛が息を切らす様子など勘十郎さんの演技は実に繊細で素晴らしい。梅川を封印切した金で身請けする場面は、ドタバタ。言っていることがいちいち御尤も。千歳太夫さんの血管が切れちゃうんじゃないかと心配になるエモーショナルな語りでございました。

最後は「道行相合かごの段」、三味線4挺、太夫4人で華やかに語ります。今回は原文ではなく、少し長めの野澤松之輔さんによる改訂版。相合かごから降り、支え合いながら道を進む二人、忠兵衛が梅川を背に負ぶう場面は唯一全うな男らしさを感じる場面か。雪も降り出し、心身共に辛く、羽織をかけ合ったり。最後はカカシの傘を奪って、二人で見栄。面白かったですが、心中物はどうしても泣けないんですよね。

三味線方初の文化功労者に選定された鶴澤清治さんも登場する第二部、第一部は来週、とても楽しみにしています!

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