能楽公演2020-新型コロナウイルス終息祈願-狂言『月見座頭』能『道成寺 古式』国立能楽堂

能楽公演2020-新型コロナウイルス終息祈願-
約半年振りの能狂言!!本来は「東京2020オリンピック・パラリンピック能楽祭」という名前で開催される予定だったそうです。席数はもちろん半分、入場時の体温チェック、消毒必須です。席数半分だと、とても見やすく舞台に集中できますね。

舞囃子「鷺(さぎ)野村四郎(観世流)」
囃子方、地謡方が能舞台に上がったらもう泣きそうになりました。舞囃子で感銘を受けたことはないのですが、素晴らしかった。人間国宝の野村四郎さん、鷺でした。扇を様々に使った羽の表現、青海波模様の扇は羽そのもの、片足をヒョイッヒョイッとあげる仕草、もう鷺にしか見えませんでした。かなりキツい舞のように思いますが、84歳でこの動きは凄過ぎる!やっぱり大鼓の天まで届く「カーン」という音は背筋が伸びますし、笛の一噌庸二さんも良かったなぁ。感動しました!

狂言「月見座頭(つきみざとう)山本東次郎(大蔵流)」
蟋蟀、キリギリス、松虫、轡虫が鳴く野辺に下京からやってきた座頭、虫の声を楽しんでいる所に上京から男が月見にやってきます。意気投合し、どぶどぶ注がれる酒を飲み、やんややんやと盛り上がる2人、歌を読む流れになり男は「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」、対する座頭は「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む」。その後の舞も男は月に関するものなのに対し、座頭は虫に関するもの。一通り楽しんだ後、別れた2人ですが、男の方が手のひらを返し、座頭に意地悪をします。それがまさか先ほどの男だとは気づかない座頭。最後の座頭の台詞は「独り我のみ泣きにけり。くっさめ、くっさめ。」、くっさめはクシャミの意で、少し悲しさを和らげているよう。最後は人間の泣き声を、おそらく虫が聞いているという何とも不条理な、笑うに笑えないお話。酒も入った男のちょっとした悪戯心だったかもしれませんが、自分が有利なことに良い気分になっちゃったのかも。きっと明日の朝、後悔すると思います。健常者と障害者、人と虫との対比が際立つ狂言でした。生きねば。

『道成寺 古式(どうじょうじ)(金剛流)』
シテ:金剛龍謹
ワキ:宝生欣哉
小鼓:幸正昭
大鼓:山本哲也
太鼓:前川光長
笛:杉市和
主鐘後見:金剛永謹

道成寺!古式!!
「古式」により、前シテは中年の女ではなく若い女の面、後半の蛇体は赤頭になり、動きも異なるそうです。2019年1月に観世銕之丞さん、大倉源次郎さんのコンビで初めて「道成寺」を拝見しましたが、その時の感動再び。今回も素晴らしかった!地謡、鐘後見の方々は黒くて格好良い特注マスク着用です。

最初の緑色の鐘を吊る所から緊張感が半端無い。これが最後まで持続するのだから堪らない。能力が白拍子に烏帽子を渡し、舞い始めるのですが、大鼓の山本哲也さんの気合いも凄かった。連打連打。そして乱拍子、シテの金剛龍謹さん、小鼓の幸正昭さんの間に今にも張り切れそうな線が見えるよう。白拍子の足先を細かく動かしながら、三角形に回る動き(80cmくらいしか移動しませんが)は、道成寺の階段を一歩ずつ上がる表現とも。丁度、シテ、小鼓、主鐘後見の金剛永謹さん(龍謹さんのお父様)が綺麗に見える席だったのですが、鐘の位置も微妙に調整されており、舞台にほとんど動きは無いのですが、心は密かに躍動し続け、正に嵐の前に静けさ。凄い。凄過ぎる。この乱拍子まじ萌える。ずっと見ていられるわ。ちなみに古式では乱拍子はやや短めです。そこから一気に急之舞、若いだけあって動きも機敏、鐘を恨めしそうに見上げ、烏帽子を自らの扇で打ち落として鐘入り。流石に親子だけあって息もぴったり。鐘が落ちるのとは逆に、白拍子は上に飛ぶんです。その瞬間は堂内の息を詰めながら見守る全員が1つになりました!

その後、能力2人の責任の押し付け合いに少し緊張が解れ、鐘に関する因縁が住職によって語られます。そして、住職たちの祈祷が始まると勝手に鳴り出し、ゆらゆら生き物のように動き出す鐘、中から般若の面を付けた毒蛇登場。後半は太鼓も加わり、激しい戦いの末、調伏されます。

後半は見ていて辛い。娘の清姫は、この演目では、何の根拠もなく母「真砂の荘司」に「あの山伏は、将来の夫になる人だ」と言われ、それを信じ続けた純粋な娘。鐘から現れた時に装束の唐織を腰に巻いているのですが、闘いの最中、シテ柱に巻きつく際に苦しげに脱ぎ捨てます。この唐織が人間らしさの象徴のように思えて(唐織を落とす所作は「鱗落し」と言われ蛇の脱皮を表すという)、きっと娘はこんな姿になりたい訳ではなくて、きっと故意に安珍を焼き殺した訳でなくて、愛する人を焼き殺した後も成仏できなくて、娘の激しい悲しみが舞台に渦巻いているようで、心が火傷するほど熱く悲痛。いつの日か清姫が成仏することを心より願います。

もうあっという間の90分間、見ている方もヒリヒリしっ放しですが、演者の方々の前で、疲れるなんて言えません。能はやっぱり見終わった後の余韻が堪らない。それは純粋に楽しいものではないのですが、じんわり沁みる仄温かいもの。このカタルシスは他の芸能では味わえない感覚。道成寺最高!!8月4日の「安宅」も超楽しみです!!!

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