松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史『秋津温泉(1962年 監督:吉田喜重)』神保町シアター

松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史『秋津温泉(1962年 監督:吉田喜重)』神保町シアター
神保町シアターで開催中の企画「松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史」にて『秋津温泉』を鑑賞しました。岡田茉莉子・映画出演100本記念作品!吉田喜重(きじゅう)監督の作品は初めて拝見しますが、この映画の成功を機に、岡田茉莉子さんと結婚、吉田監督の説得により、決意していた引退も翻意されたそう。1933年生まれ、51年デビューの岡田茉莉子さん、11年で100本出演とは凄いペースです。

配役
岡田茉莉子:新子
長門裕之:河本周作
日高澄子:お民
中村雅子:晴枝(周作妻)
清川虹子:酒場の女将

自ら企画、衣装も担当した『秋津温泉』は岡田茉莉子さんの魅力に溢れた映画。29歳の岡田さんが17歳(昭和20年)から34歳の新子を演じますが、流石に十代は無理があるかも。岡田が思いを寄せる周作、男性の方が年齢のギャップによる不自然さは無い気がいたします。周作、最初から最後までかなり鬱陶しいです!

映画の冒頭は岡山の焼け野原から、周作はそこから電車で鳥取へ向かいますが、結核のため体力が持たず途中の津山駅で下車、近くにある秋津温泉(奥津温泉がモデル)の秋津荘へ向かいます。最初の5分ほど、演技もくどくてやべえなと思ったのですが、流れが変わったのは終戦の玉音放送。それを校庭で聞いた新子、聞くなり自宅へ向け猛ダッシュ、途中で転倒しリュックの米が路上に飛び散ります。大切な米なのでかき集め、何も知らずに療養している周作の部屋へ駆け込み「負けたのよ。日本は負けてしまったのよ」からの泣きの演技が素晴らしい(1〜2時間泣き続けたらしい)。『この世界の片隅に』の敗戦を知ったすずの大泣きを思い出しました。序盤の「日本は負ける」と言ってしまい、軍人に刀で追い回されるシーンが効いています(ここで周作で初めて出会う)。

その後、周作が歩けるほどに回復してからの峠のシーンも良い。下駄に着物姿でツグミのようにピョンピョン飛び跳ねる姿がとってもチャーミング。周作の台詞通りの眩いばかりの生命力を感じる。「あたし偉いでしょ、一人の人を助けちゃったんだもの」の台詞も全く嫌味が無い。それに対し新子と心中を計ろうとする周作は軽い、最後まで軽い。二人の愛の重みの違いが痛いです。もう1つ印象的なシーンは、不本意なお見合いの後、草履を放り出し、川の巨大な石に寝転びながら、煙草を蒸す新子、頬には一筋の涙、非常に美しい。美しいぞ。吉田監督もこの時にはきっと岡田茉莉子大好き!と想像されます。

そして色々有り最初の出会いから10年後、于武陵(井伏鱒二訳)の『勧酒』がポイントに。「花に嵐の例えもあるぞ」、この時、初めて夜を共にすることに。花は、悲しく散りました。。。その次の日、桜が舞い散る中、浮かれ気分の新子が、ネットに凭れかかる周作にぶつかっていくのも良い(網ドン)し、津山駅での見送りのシーンも良い。「今日は僕に送らせてほしいな」と電車内から言う周作、そのまま駅から去ると思いきや、階段を降りる手前で新子は静止、駅を離れる電車の入り口から顔を出し、またしても見送られる周作。今の愛想の無い電車では有り得ない情緒的なシーンです。

さらに7年後、取材で秋津温泉を訪れた周作と偶然再開、この時には秋津荘も手放している。離れのシーンで、新子の振り向き様の笑いが怖い。死を覚悟した女の笑い。最後の新子の自殺シーンが今ひとつだったのが残念。川を降りていくのは、最初の山を登るシーンとのコントラストが効いていて良かったが、最後に「ギャーッ」と叫ぶのはいかがなものか。何か鬱々としたものがある新子の一生です。

終始流れる林光さんの大げさな音楽と、格子越しのカメラワークが煩わしく感じたものの、酒場の客や記者などのチョイ役がやたら豪華で、岡田茉莉子さんの、『秋日和』や『バナナ』とは違う、また別の魅力を堪能できる映画。岡田茉莉子さんは、死に向う演技より、生に溢れた演技の方が圧倒的に素敵だと思いますが、この時の岡田さん自身はこういう役をやりたかったってことなんでしょうね。20代にして凄過ぎます。この映画の岡田茉莉子さんは兎に角よく走る!そして寝て、泣き、笑う!素敵な映画をありがとうございます!

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