シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』東劇

シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』東劇
東劇で上演中のシネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』を拝見しました。2009年4月に歌舞伎座で上演されたものです。近松門左衛門の人形浄瑠璃『夕霧阿波鳴渡』「吉田屋の段」を歌舞伎用に書き換えたもので、濃厚味を抑え、あっさり華やかな雰囲気。『廓文章 吉田屋』は2019年1月松本幸四郎の伊左衛門、中村七之助の夕霧で一度拝見したのみ。恥ずかしながら上方歌舞伎ということすら今日知った次第ですが、演じる役者でこうも違うか。最初に片岡仁左衛門のインタビュー映像が入るのですが、十三代目仁左衛門(父)の関西歌舞伎凋落の苦難、命を掛けた「仁左衛門歌舞伎」興行の話だけで泣けてきました。実際演技を拝見したことはありませんが、大変偉大な方です。そして坂東玉三郎さんとのコンビのお話、役者同士で大喧嘩できる関係はとても珍しいのだそう。お二方のエピソードにも立役と女方の性格のようなものがよく出ていて興味深いです。

配役
藤屋伊左衛門:片岡仁左衛門(松島屋)
扇屋夕霧:坂東玉三郎(大和屋)
太鼓持豊作:坂東巳之助(大和屋)
番頭清七:大谷桂三(十字屋)
阿波の大尽:澤村由次郎(紀伊國屋)
吉田屋女房おきさ:片岡秀太郎(松島屋)
吉田屋喜左衛門:片岡我當(松島屋)

伊左衛門の花道からの出、前後をロウソクで照らす差し出し(面あかり)は松島屋独自の演出、当分傘で顔は見せず焦らします。ちなみに伊左衛門は七百貫目の借金があるようですが、今の金額だと少なく見積もって五億円以上!とんでもないお馬鹿か大物か。そして最後の場面で、身請けのための千両箱が10個くらい積み上げられますが、文楽では2,800両で今の金額だと2億円くらいでしょうか。江戸の金銭感覚恐るべし。「吉田屋奥座敷の場」に移りますが、こんなに笑える演目だったとは!!馬鹿馬鹿しさを見ている人に感じさせずに馬鹿馬鹿しく演じるのが肝心とおっしゃっていましたが、一挙手一投足がチャーミングで微笑ましく、二枚目が演じることに意味がある。シネマ歌舞伎だから分かるのかもしれませんが、ちょっとした手の動き、紙衣の使い方など芸が本当に細かい。何枚も襖を開けて、夕霧の様子を見にいく、蛇行したちょこまか歩きは絶品です。伊左衛門の可愛さを十分楽しんだ後は夕霧登場。場に居るだけ空気が変わる、息を飲む華やかさ。パラダイスへようこそ。それでいて華やかさだけでなく、遊女の憂い、しかも病気開け、好きでない客の相手をした後の倦怠も感じるのが素晴らしい。

好いた物同士の言い合い(口舌、いちゃつき?)、「万歳傾城」とはなかなか理解しにくい悪口、2年振りの出会いではありますが、見ている方は「喧嘩するほど仲良し」というのはわかっていますから好感を持たせるように演じるのは難しいのでは。その場面も竹本、常磐津の掛け合いが入り全く飽きさせません。途中で太鼓持が登場するのも松島屋ならではだそう。フレッシュな巳之助君、大御所2人に挟まれてどんなお気持ちだったでしょうか。ドキドキしました。最後は勘当も許され、夕霧も身請けされてご都合よろしくハッピーエンドが嬉しい。

周りを固める片岡我當さん、片岡秀太郎さんの大らかな様子もお見事。脇役の重要さを感じます。上方歌舞伎ならではの「和事」の素晴らしさが理解できたような気がいたします。夕霧も上方の女方役者が演じると変わるのでしょうか。また機会があれば拝見してみたいものです。子供のころ毎週土曜12時からテレビで見ていた吉本新喜劇もきっと上方歌舞伎から大きな影響を受けているのでしょうね。文楽もそうですが、東京とはまた違う、大阪の文化って本当に面白いです。

ついでに伊左衛門の着用している紙衣(かみこ)についてメモ。その名の通り和紙を繋ぎわせた着物。当時は防寒用に着用されていましたが、歌舞伎ではみすぼらしさと、夕霧からの恋文により強い思いを、紫は病鉢巻同様に病(恋煩い)を表しています。裏地は赤の「紅裏」で、普通女性や子供が着用するもの、当時は体調の変化で色が変わる紅花で染められており、健康状態を知るためだとか。帯も初代上村吉弥の考案の女帯の結び方「吉弥結び」、紙衣の帯下は斜めの模様の入った江戸褄で、大奥女中から始まったものだそう。全体的に女性らしい弱々しい装いとなっています。

「親の恥 許しをこうて 伊左衛門」

コメント

タイトルとURLをコピーしました