松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史『長屋紳士録(1947年 監督:小津安二郎)』神保町シアター

『長屋紳士録(1947年 監督:小津安二郎
神保町シアターで開催中の「松竹映画100周年 “監督至上主義”の映画史」で小津安二郎監督の『長屋紳士録』を鑑賞しました。71分の短い映画ですが、素晴らしかった!

配役
おたね(かあやん):飯田蝶子
幸平:青木放屁
為吉:河村黎吉
田代(占見登竜堂):笠智衆
喜八:坂本武
きく女:吉川満子
柏屋・西村青児

主役の飯田蝶子さんが最高!!映画では背景は説明されませんが、夫と子供を亡くしたという設定のよう(後家という言葉は最後の方で出てくる)。下町の長屋、築地本願寺や築地川に掛かる橋が何度も出てくるのでその近くで荒物屋を営んでいる。物語は笠智衆演じる田代が、靖国神社の鳥居の辺りで迷子になっていた子供幸平を連れてきてしまう所から始まります。九段下から築地、けっこう遠いが歩け無い距離はありません。戦後2年後の作品ですが、荒廃している様子を感じさせない映像。

幸平はほとんど台詞がないのですが、存在感有ります。放屁という名前はマジかと思ったのですが、マジでした。この映画では富廣という名前でしたが、後に「ブーちゃん」という愛称を踏まえて放屁に改名されたそうです。。。良い時代だ。寝小便した布団をうちわで乾かす姿に何ともいえない哀愁を感じます。

幸平を以前住んでいた茅ヶ崎へ連れて行く役割を、長屋の住人のおたね、喜八、為吉の3人で、クジできめるシーンも最高。「×」印が当たりなのですが、全てのクジに「×」が。爆笑。おたねと幸平の茅ヶ崎のシーンも良い。2人でお握りを食べる場面や、幸平にお土産の貝殻を拾ってきてと頼み、その間に逃げる場面が良い。おばちゃんの砂浜爆走、最高です(すぐに追いつかれる)。

劇中で笠智衆が歌う「からくり節」も秀逸。「のぞきからくり」は、覗き穴から覗くと、口上に合わせて絵が変わっていく大道芸。色々な口上があるそうですが、劇中で歌われたのは徳冨蘆花の小説『不如帰(ふじょき/ほととぎす)』をベースにしたもの。10円クジで2,000円を当てたエピソードも良い。子供は欲がないから当たるという話を聞いて、「お前わりと無邪気だろう」と幸平に買いに行かせるおたね。もちろん当たるはずはなく、幸平に八つ当たり。続いて干し柿を勝手に食べた幸平を怒るシーン。実は食べたのは為吉と分かり、謝るおたねも良い。その後、幸平は泣きながら、おたねは反省しながら干し柿をかじる。とても良い。「コチコチの握り飯みたいな顔」という例えも面白い。

次の日、再び寝小便をしてしまい垂れ逃げ、どこかに行ってしまった幸平。せいせいしたと言われながらも心配で周辺を探すおたね。友達のきく女(吉川満子)との何気ない会話も良いな。「あんたは土佐犬にブルも混じってる」って口悪〜。シラミかノミだかがたかってるのか、方をクネクネ動かす動作も移ってしまっている。そもそも顔が似ている2人、キャスティングが素晴らしい。結局田代が、前と同じ九段下で見つけて一緒に帰宅。おたねは自分で育てる決意をし、動物園(上野?)に連れていったり写真屋(このシーンも面白い!)へ行ったりしますが、その夜、幸平の父が迎えに来る。

その後、終始仏頂面だったおたねの号泣シーンは、こちらも号泣。「親子っていいもんだね」「いじいじしてのんびりしてないのは、私たちだったよ」、お父さんが迎えにきてくれて嬉しいから泣いてんだっていう強がりが染みます。寂しいんだったら上野で子供を拾ってきたらというのは凄いですが、最後は上野公園の戦争孤児からの西郷隆盛像を左後ろから映した映像で終幕。最初は犬のように扱われていた幸平とおたねの2人が重なります。

小津映画はやっぱり人物描写が素晴らしい。カメラ固定の長回しとか、無駄なようでいて無駄な映像が全くありません。何気ない会話などでこんなに笑えるのは、間の取り方が最高だからだろうか。気の良い人しか出てこないのも好きだし、お握り、どら焼き、干し柿、ホットケーキ(饅頭?)など食べるシーンがいっぱいでてくるのも好き。美男美女が一切出てこないのも素晴らしい!外は寒いですが、気持ちがじんわり温かくなる。とても素敵な映画でした。

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