「月間特集 絵画と能・狂言」ということで、本日のお題は葛飾北斎の娘の葛飾応位「月下砧打ち美人図」、しかし会場に肝心の絵が展示されておらず残念。。。個人的には上村松園の能『砧』から着想した作品「砧」を見てからずっと見てみたいと思っていた演目です。
配役
狂言『塗附(ぬりつけ)髙澤祐介(和泉流)』
まずは楽しい狂言から。今日は早起きし、午前の文楽で集中力を使ってしまったためバッドコンデション。眠いです。狂言で眠ったことは無かったのですが、少し寝てしまいました。。。とてもわかりやすい話で、二人の大名の禿げた烏帽子を漆塗り師が修理するのですが、そう巧くは行きません。「塗りなおし〜、早漆〜、しかも上手です」の塗師の掛け声は爆笑。漆を早く乾かすための簡易風呂はでっかい紙袋!2人の烏帽子がくっ付いてしまうものの、塗師の見事な舞により解決。わかりやすいっ!
能『砧(きぬた)梓之出 大槻文藏(観世流)』
1時間45分と長めの演目、前半ちょっと、いや、かなり寝てしまいましたが、後半は集中できました。小書「梓之出」により後シテの登場の仕方、面装束が変わるという。しかし長い割に解釈も分かりにくく、動きも少ない『砧』、役者の方には大変な難役と想像されます。
匈奴に捕らえられた蘇武が、故郷の妻子を忍んで砧を打ち、それに妻子が答えて砧を打ち返した、という故事を引き合いに出していますが、そういう史実は無いらしい。まぁ、そんなことはどうでもよく、帰らぬ夫を思って何千回も砧を打つ妻。「夜嵐の音、悲しみの声、虫の音、それに交じって落ちる露の音や涙の露が、ほろほろはらはらはらと音を立てて、どれが砧の音かわからなくなってしまった」という詞章は切なくも美しく、砧に見立てた扇で綾の衣を打ちます。侍女の夕霧が夫の恋人という見方もありますが、関係があったとしても心を縛るほどの深い仲ではないのでは。しかしそれもあまり重要ではなく、やはり使いが男性でなく女性のほうが、砧を使用するのは基本的に女性ということもあり、この演目ではしっくりきます。
後半の亡妻の出、揚幕が上がった後も数秒微動だにせず、じっくり姿を見せる。面は前シテの深井(洞水 作)に対し、後シテは痩女(栄満 作)、衣装も細っそりで、地獄に落ちた苦しさが見た目からも伝わります。「怨みは葛の葉が返るように」の詞章は「恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」で有名な葛の葉狐を連想。亡妻は、地獄で阿防羅刹に鞭で打たれたりする苦しみを語り、「あなたは大うそつきと言われるカラス以下だ!畜生め!」というような内容で夫を罵倒。動きは生前よりも小気味好い気がする。変わり果てた姿を夫に見られるのは恥ずかしいということもあるのか、夫に体で迫るのは最後の最後のみ。夫の法華経の読誦はごく少ない動きのみで表現、砧の音に導かれ、妻は成仏いたしました。
私の感覚でいけば、何故に夫を愛して苦しんだあげく死んだ妻が、地獄に落ちなければいけないのかという気持ちになります。妄執で成仏できないのはわかりますが、何故地獄で責苦を受けなければいけないのか?一体何の罪?しかし夫も死後は、申し訳なさから梓弓で亡妻を呼び出し、砧まで打っているから、妻の無念も果たされ、あっさりと成仏したのには納得だが。色々と考えさせられる演目でした。作者の世阿弥が「後世の人はこの能の味わいがわからないだろう」と述べたというから、現代人にはわからない感覚があるのでしょう。
ちなみに、こちらが葛飾応位「月下砧打ち美人図」。
女性の着物や足の動きから、かなりの重労働と想像されます。
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