4月企画公演「日本人と自然 春夏秋冬」狂言『木六駄』/能『泰山木』国立能楽堂


国立能楽堂で、狂言『木六駄』、能『泰山木』を拝見しました。まずは京都造形芸術大学舞台芸術センター所長で能楽研究者の天野文雄さんの『泰山木』に纏わるおはなしから。金剛流では『泰山府君』と呼ばれる『泰山木』は、源平盛衰記の一編から世阿弥が創作したもの。江戸時代には廃れてしまったが、昭和35年に金剛流で上演、この時の謡は観世元章(もとあきら)の『明和改正謡本(1765年)』を元にしていたそう。製作のきっかけとしては、応永27年(1419年)、足利義持が大病を患った時に、花の御所で「泰山府君の祭(安倍晴明が使った陰陽道の最高奥義とも)」が数回行われており、それに合わせて世阿弥が創作したとか。勉強になります。

でもって本日は、観世流と金剛流の両宗家の共演(立合)、平成12年に福王会で復曲されたものの再演。曲名も世阿弥が創作した当初の『泰山木』を採用。さらに天女の面は金剛宗家蔵の「雪の小面」柳右衛門(りゅうえもん)作、なんと徳川秀吉から拝領したもの、泰山府君の面は観世宗家蔵の「小癋見」赤鶴(しゃくづる)作、な、なんと重要文化財、そしてそれを交換して着用!えげつないスケールの戯れ方。さらにさらに府君の衣装は観世宗家蔵の「花色地青海波亀袷狩衣」、な、な、なんと2代将軍徳川秀忠から拝領したもの。凄ぇー!鼻血出ます。楽しみ。

配役

狂言『木六駄(きろくだ)茂山千五郎(大蔵流)』
茂山千五郎のシテは昨年拝見した『彦市ばなし』以来。輪郭のはっきりとした語り口で、台詞が非常に聞き取りやすく、笑いがとても多い演目でした。途中で出てくる諸酒は今でいう清酒、当時としては一般的な濁酒に対する高級酒だったよう。雪の中、木六駄、炭六駄を牛12頭に背負わせ伯父に届ける太郎冠者、途中の茶屋で酒は飲み干し、面倒臭くなって木六駄も茶屋の主人にあげてしまう無茶苦茶さ、牛を引いていく掛け声やしぐさの滑稽さが楽しい。「小黒」っていう牛はとても従順です。茶屋で酔っ払って舞う「鶉舞」も楽しい。木六駄に改名しちゃいました、っていう伯父への言い訳も最高ですね。

復曲能『泰山木(たいさんもく)観世清和・金剛永謹』
今日の小鼓は大倉源次郎さん、ちょっと心配していたのでお元気そうでなにより。金剛流の『泰山府君(たいさんふくん)』は、前場と後場の天女を別の役者が演じるようで、その不自然さを指摘されている方が多いようですが、今回はそれはなく、詞章も少し異なるよう。不満と言えば舞台中央に桜の作り物が置かれるので、座っていた場所から、役者の顔がけっこう見えない。。。想像力で補おう。そんなこともあり、前半数秒寝落ちしてしまいましたが、後半は凄かった。空から地上への道を表現する橋掛りの使い方も素敵、天女の舞も非常に長く美しく大満足。泰山は死者の霊が集まる場所、人間の寿命や在世での地位を司る泰山府君には、花の寿命を伸ばすなんて余裕です。天女が手折った桜の枝をもとに戻す時に、そっと肩に手を置く泰山府君が格好良い!「小癋見」の面も最高!!その後の足拍子を多用する舞も雄大、思わず身を引いてしまうほどの迫力が凄い!作り物の桜に覆い被さる部分があるのですが、作り物の桜が本物に見え、泰山府君が15mくらいに見えた。いや〜、素晴らしい。先月、皇居外苑で拝見した『翁』に続き、演目、配役、面、衣装と、全てにおいてとんでもなく贅沢、滅多に見られないものを見られた感動がありました。自分はそうではありませんが、花を心から愛でられる人は、人も心から愛でられるのでしょうね。最高です!
「雪の小面」柳右衛門作「小癋見」赤鶴作

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