四月大歌舞伎 第一部『小鍛冶』『勧進帳』歌舞伎座

四月大歌舞伎 第一部『小鍛冶』『勧進帳』歌舞伎座
四月大歌舞伎、第一部を拝見しました。一幕目は猿翁十種の内『小鍛冶』、なんと24年ぶりの上演、当代猿之助では初役のようです。

配役
童子実は稲荷明神:市川猿之助(澤瀉屋)
三條小鍛冶宗近:市川中車(澤瀉屋)
巫女:中村壱太郎(成駒家)
弟子:市川笑三郎(澤瀉屋)
弟子:市川笑也(澤瀉屋)
弟子:市川猿弥(澤瀉屋)
弟子:市川猿三郎(澤瀉屋)
勅使橘道成:市川左團次(高島屋)

能、文楽でも有名な演目ですが、文楽しか見たことはありません。歌舞伎バージョンは文楽、能、歌舞伎が渾然一体となったような雰囲気で面白い。まずは稲荷神社と紅葉の背景、重々しい竹本による語りから。三味線が体を右に揺らす動きは初めてみたかも。役者の台詞は無く、竹本の語りに合わせた動きは、人形振りとまではいきませんが、文楽そのもの(最初の方だけでしたが…)。後ろの積み藁から童子登場、『蜘蛛の絲宿直噺』の禿みたいだったらどうしようと思いましたがニヤついた少年らしい怪しい少年でした。この少年の鍾馗、日本武尊の故事に合わせた所作が一番楽しかった!袖の扱い方が絶妙ですね。素晴らしい。すっぽんからと見せかけて、あんなところから、退場の仕方も格好良かったな〜。続いて舞台が変わり、下手に長唄連中、沢鷹屋の皆と壱太郎君の楽しい場面。猿弥さんの「打つ」に掛けたワクチンネタから、笑三郎さん猿三郎さん、笑也さん、再び猿弥さん、壱太郎君の時にしっとり、時にほんわかした所作事が続きます。さて剣を打つ準備をしようと花道から仲良く退場する5人、連帯感も素晴らしく、見ていて自然と笑みが溢れます。

再び上手に竹本、加えてお能的な囃子方も登場、上手に固まると密集具合が凄い。いきなり勅使役の左團次さんも登場、唇が金色、頭に狐が跳ねる稲荷明神が急に出てきても勅使が全く驚かないのが不思議でしたが、なるほど、あの姿には見えてないのでしょう。トンカントンカントンカンカン(能だと、ちょうちょうちょう)小気味好いリズムで刀を打ち続ける2人。狐はやはり戯けた性格なのでしょうか、随所に狐っぽい動き、力強く時には軽妙な足拍子も見事で、滅茶滅茶楽しそうに相槌を打つ姿が印象的。真剣な宗近との対比も良いです。囃子に胡弓も入るなど後半詰め込み過ぎな感じがしなくもなかったですが、能がベースの演目は大好き、澤瀉屋の芸は凝縮感があり、たっぷりと魅せてくれます。

続いては歌舞伎十八番の内『勧進帳』B日程、頻繁に上演される超人気演目ですが、歌舞伎では2019年「秀山祭九月大歌舞伎」の仁左衛門弁慶以来でした。

配役
武蔵坊弁慶:松本幸四郎(高麗屋)
富樫左衛門:尾上松也(音羽屋)
亀井六郎:大谷友右衛門(明石屋)
片岡八郎:市川高麗蔵(高麗屋)
駿河次郎:大谷廣太郎(明石屋)
常陸坊海尊:松本錦吾(高麗屋)
源義経:中村雀右衛門(京屋)

松也君の冨樫初役ということでも注目、取り敢えずお付きの太刀持ちの子役の刀を持つ手が震えていて大変そうです。全体的に軽い感じの『勧進帳』、「山伏問答」も流れてしまっている気がしましたが、今後よくなっていくこと想像されます。何回見ても勧進帳は、そんなに面白い演目と思えないのは天邪鬼だからでしょうか。ちょっと眠気が。幸四郎さんも、足が長いから仕方が無いのかもしれませんが、腰の位置が高く、弁慶の重厚感を感じられないかも。この辺は今後の小顔足長の若手歌舞伎役者の課題かもしれません。今回は「延年の舞」からの「滝流し」有り。初めて見ましたが、視線の使い方やくるくる回る所作など滝を想像させる特徴的な舞が楽しい。義経役の雀右衛門さんは上品で気品があり良かったですね。Bプロを見て、見比べられる機会もそうないのでAプロも見たいなと思ったのですが、都合が合わず。。。しかも3等席は完売ときた。白鸚さん、また是非弁慶役やって下さいませ。千秋楽に拝見する第二部も楽しみにしています!

※後日「歌舞伎名作撰 勧進帳」を視聴、七世松本幸四郎の弁慶、十五世市村羽左衛門の冨樫、六世尾上菊五郎の義経、1943年(昭和18年)に歌舞伎座で上演されたもの、モノクロ。屈指の名演というだけあり、「山伏問答」も迫力満点、「延年の舞」も華やかで力強く、とても楽しい。演技や唄の調子にも色々異なる点も見受けられ興味深い。勧進帳で物語を運んでいるのは冨樫ですが、やはり主役は弁慶。見る方としては冨樫に感情移入しやすく、弁慶が凄ければ凄いほどストーリーにも納得できます。ある意味、弁慶がしょぼいと、冨樫まで馬鹿っぽく見えてしまう。個人的には「勧進帳」はあまり好きな演目ではないのですが、また見てみたいと思ってしまうのは、受け継がれてきた伝統、そして言葉にできない蠱惑的な力のある演目だからでしょう。

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