6月3日、六月大歌舞伎初日『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)下の巻』を拝見しました。今日はとても久々の3階東側の席、上手は少し見切れます(権助の掘る穴がギリギリ)が、花道がすっきり見通せて気持ちが良い。
配役
清玄/釣鐘権助:片岡仁左衛門(松島屋)
粟津七郎:中村錦之助(萬屋)
葛飾のお十:片岡孝太郎(松島屋)
奴軍助:中村福之助(松島屋)
吉田松若:片岡千之助(松島屋)休演
判人勘六:嵐橘三郎(伊丹屋)
長浦:上村吉弥(美吉屋)
残月:中村歌六(播磨屋)
桜姫:玉三郎坂東玉三郎(大和屋)
まずは四月上演された『桜姫東文章 下の巻』のあらすじ説明があり、「岩淵庵室の場」から。北本所の岩淵地蔵堂草庵(赤羽岩淵の延命地蔵尊か)に住んでいる哀愁漂う残月長浦コンビ。狸の八畳敷、よいよい婆ぁ、わいわい坊主(=わいわい天王=物乞)など品のない口喧嘩が楽しい。落ちぶれた歌六さんは良いですが、落ちぶれた仁左衛門さんはちょっと可哀想。その後桜姫との真男現場を長浦、権助に見つかり惨めな残月。身ぐるみ剥がされて追い出される2人はやっぱり仲が良さそう。帯でくるくる回される残月に、傘を裏返して花道から引っ込み長浦は爆笑。きっと2人はしぶとく生きていくことでしょう。数少ない楽しい場面でした。権助は勘六を呼びに退場。荒天で薄暗い中、鏡にポーズまで取っちゃう桜姫のお色直しシーンは素敵。落雷により清玄復活。桜姫と清玄のバトルは見応え十分!経文を使った立ち合いも美しく、桜姫に迫る瀕死の清玄の激情は凄まじい。玉三郎さんに対する、あのとんでもなく卑猥な手付きは仁左衛門さんじゃないとできないな。素晴らしい。穴に落ちて死んじゃう場面はそうなるのか。青い火の玉になっても桜姫を追っていく清玄の執念も凄い。正当防衛とはいえ殺人(勝手に死んだのだが)まで犯した桜姫、「所詮この身は、毒食はば」が良い!赤い肝っ玉娘vs.青い火の玉坊主って感じか。しかしこの決意でこのお話、桜姫の勝ちが決まった印象です。
休憩挟んで「権助住居の場」、その前の悪五郎が権助に返り討ちに殺される「山の宿屋の場」の一部はカットしてうまいこと繋げている。少しだけですが仁左衛門さんと孝太郎さんの濃い目の絡みが良い。見所は小塚原の千代倉(荒川区南千住)で安女郎に落ちた桜姫の変貌ぶりと、お姫様が抜けない妙な喋り方。玉三郎さん流石です。権助と桜姫のいちゃつき場面、頬杖付きながらの共寝にニヤニヤ、八百善の仕出しにつられ寄合いへ出かける権助。玉三郎さんの聞こえるか聞こえないくらいの声量でぶつぶつ言う台詞回しは秀逸。死霊清玄との再対決も良いです。見慣れてしまって全く動じない桜姫が素敵。死霊清玄の活躍もあり、トントン拍子に権助の悪事が桜姫に露見。酒を飲み、虚空を見つめ、泣く、桜姫の表情が切ないっ。
大詰は、金龍山浅草寺、雷門前、三社祭の最中、軍助も生きていたのね。軍助、粟津七郎、お十と捕手との立ち合いがあり、軍助の葛篭から桜姫登場。仁左衛門さんの三役目、大友常陸之助頼国(桜姫の許嫁)も急に現れ、目出度く幕切れ。
上の巻よりさらに仁左衛門さん、玉三郎さんの二人舞台。難しい役かと想像しますが、それを感じさせることなく素晴らしい名演。一挙手一投足に目が離せませんでした。そかし若くして強姦、入れ黒子、出産、浮浪、女郎、死霊、殺人などなど、とんでもない経験をしたのにへこたれない桜姫の精神力恐るべし!そして下の巻の清玄は散々で切ない。きっと桜姫を守るために(きっと覗き見目的ではないだろう)、夜な夜な出てきていたのだろうしな。成仏したかどうかもわからないし、あの刀で白菊と清玄の因縁切れたとも考えにくいし。まぁ、権助=清玄、赤子=桜姫で心中を遂げたと考えれば納得いくか。死霊清玄や粟津七郎(仙太郎)の行動など色々腑に落ちない部分もありますが、鶴屋南北は伏線なんて回収しません!きっと理由なんてない、深く考えなくても楽しいのが歌舞伎です。
中旬の2回目も楽しみ。千之助君が復活していてくれると嬉しいけど。「まず、こんにちはこれにて」
※2回目拝見
セリフはほぼ同じですが、演技が違うのは、やはりその時々で感情が違うからでしょうか。前回見切れていた権助の穴掘り、清玄の穴落ち場面もよく理解できました。しかしあんな格好良く、素敵に鍬を触れる人がいるのか。台詞は一言でしたが千之助君も無事復帰。思い出に残る公演でした!
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