八月花形歌舞伎 第一部『加賀見山再岩藤 岩藤怪異篇 巳之助Ver.』歌舞伎座

八月花形歌舞伎 第一部『加賀見山再岩藤 岩藤怪異篇』
今月の歌舞伎初めは八月花形歌舞伎 第一部、三代猿之助四十八撰の内『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)岩藤怪異篇』から。猿之助さんがコロナ感染のため主役は巳之助君、初めて見る演目でしたので、とても楽しみ。

配役
多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、岩藤の霊:坂東巳之助(大和屋)
鳥居又助:中村鷹之資(天王寺屋)
安田帯刀:市川男女蔵(滝野屋)
蟹江一角:中村亀鶴(八幡屋)
花園姫:市川男寅(滝野屋)
蟹江主税:市川猿四郎(澤瀉屋)
局能村:市川寿猿(澤瀉屋)
局浦風:市川笑三郎(澤瀉屋)
お柳の方:市川笑也(澤瀉屋)
花房求女:市川門之助(滝野屋)
二代目中老尾上(お初):中村雀右衛門(京屋)

亡霊となった岩藤の復讐に焦点を当て再構成した、「岩藤怪異篇」としての上演とのこと。幕が上がると多賀家方と望月弾正方の腰元たちの対立、浅葱幕が落ちると「大乗寺(金獅峯)塀外の場」、巳之助君は多賀大領→梅の方→奴伊達平→弾正の4役早替わり。門之助さん演じる求女(もとめ)は、禅定と妹お柳の方の陰謀に薄々気づいており、大領に忠告するも、お柳にメロメロの大領は求女を追放。人間関係が分かりにくいですが、望月弾正、お柳の方、蟹江一角、蟹江主税(赤面)が悪役。安田帯刀(たてわき)と蟹江一角の衣装が似ていた紛らわしい。第一場でおおよその人間関係が説明され、奴伊達平の奮闘虚しく多賀家家宝の「金鶏の香炉」を盗まれる。最後は弾正の高笑いで幕。お柳の方役の笑也さんもキリッとした表情が素敵でした。

浅野川々端の場」では求女の家来鳥居又助が、提灯を菊唐草の紋に入れ替えるという単純なトリックに引っかかり梅の方を刺殺、帯刀の弟安田隼人への早替わりがお見事。続く「八丁畷三昧の場」は通称「骨寄せの岩藤」と呼ばれる場。多賀家の馬の死骸を捨てる馬捨場に捨てられた岩藤の屍体、今は骨だけですが、尾上の回向をきっかけに復活。青光りする骨がくっついて骸骨に合体するのが楽しい。巳之助君の6役目、岩藤の霊が登場、凄みのある声が良いですが、「旭の尊像」の力で悪霊退散。その後のだんまりの安田隼人から望月弾正への早替わりもお見事でしたが、キャラが似ていて一瞬誰かわからないのが難点か。最後岩藤は弾正に取り付いたってことか?この時に尾上は大事な「旭の尊像」を落としてしまいます。続く「花の山の場」は一転して明るい舞台に。「ふわふわ」と呼ばれる岩藤の宙乗り、怖い亡霊のはずですが、蝶々2羽も一緒に満開の桜の上を左右にふわふわ、久々に娑婆に帰って来られたのが嬉しくて堪らないのでしょうか。ちょっと趣味が悪いと思えなくもないですが、歌舞伎らしい楽しい演出です。

休憩挟んで「多賀家奥殿の場」、男寅君の花園姫がお綺麗です。弾正が上使としてやってきますが、背景もおどろおどろしいものに代わり岩藤登場。尾上が姫の全快を祈願した草履の額の願文が姫を調伏する願文に取り替えられており、有名な草履打ちの場面へ。尾上というか、雀右衛門さん可哀想。そこにタイミングよく帯刀が朝日の尊像を持って到着、再び岩藤退散、すっぽんに消えていく骸骨に哀愁を感じます。「鳥居又助切腹の場」は色々あって捨て子だったお柳と又助が兄弟だったことがさらっと判明し、お柳改心。最終的に又助、お柳、弾正死亡。岩藤も三度目の正直でやっつけられ、最後は多賀大領も正気に、重宝も戻り、めでたしめでたしでした。

『加賀見山再岩藤』は『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』の後日譚だそうですが、前日譚の内容も知らず、今回の演目も短縮版で、展開が早いため、ついていくのが少し大変でした。岩藤の怨念や草履打ちが『旧錦絵』から続いているのは理解できるのですが、額に草履が姫の全開を祈願するものというのは何故、鬼子母神のお草履とりから?

ストーリーや「ふわふわ」などの演出は面白かったのですが、役者の演技で特別印象に残るものはなかったかも。しかし猿之助さんがいないなか皆で盛り立てようという気持ちが伝わってきて、結果皆良かった。巳之助君の代役は大成功、少ない練習量でここまでできるのが凄い。話がややこしいので、時間があれば、その時は猿之助バージョンで、もう一度見てみたい『加賀見山再岩藤 岩藤怪異篇』です。

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