竹橋の東京国立近代美術館で「没後50年 鏑木清方展 」を拝見しました。
「黒髪」は明治座で上演された『伊達政宗』で、市川松蔦演じる片倉小十郎景綱の娘弥生が広瀬川で髪を洗う姿から着想を得たものという。高い鼻、細い目にふっくりとした優しい輪郭線が素敵。代表作である「鰯」は駒込富士神社近くの風景、初めて聞いた「麦藁蛇(むぎわらじゃ)」は縁起物だそう。「明治時世粧」は「すきや」「あかし」の2幅構成、着物の柄が面白い。端午の節句の子供の菖蒲打ちと鍾馗様が描かれた「菖蒲打」、薩摩芋屋の十三里(栗より[九里四里]美味いの洒落)の看板が描かれた「十一月の雨」など当時の市井の街並みに作者の慈愛が感じられます。
やはり珠玉は「築地明石町」、黒い羽織姿の女性の美しさはもちろん、背景の朝顔、船のマストとの調和も完璧、数カ所使用された赤、指輪の金のアクセントも見事です。素晴らしい。
作者自身と『三枚続』を手に持つ泉鏡花を描いた「小説家と挿絵画家」も温かみがあって好き。歌舞伎もお好きだったようで親近感。『新版歌祭文』の「野崎村」のお染と母の表情、『冥途の飛脚』の「薄雪」は抱き合う梅川忠兵衛、「春の夜のうらみ」は『京鹿子娘道成寺』を幻想的に、「京鹿子娘道成寺」「道成寺 鷺娘」は写実的で目がいっちゃってるから、ちょっと離れて見た方が素敵かも。絵日記のような「築地川」も良い。船見橋(ゆうれい橋)に出るという獺のお化けを書いた「獺化ける」とか最高で添えられた文章も面白い。「『苦楽』表紙原画 たけくらべの美登利」など、還暦以降に書かれた肩の力の抜けた慈愛に満ちた作品がとても好きだわ。
全体的な印象として、良いにおいのしそうな絵が多いなと思っていたら、終盤、鏑木清方の言葉「かをりの高い絵をつくりたい、作りたいより自ら生まれるようになりたい」が壁に印刷されておりびっくり。展示数は少なめな印象でしたが、展示替えも多いよう。客数も少なく、ゆったりと見られたのも良かったです。
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