歌舞伎座で六月大歌舞伎 第三部『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を拝見しました。片岡仁左衛門さんの帯状疱疹による休演のため、急遽『与話情浮名横櫛』から変更された演目。休演は残念でしたが、とても素敵な舞台が見られて幸運な気も。
配役
芸者お園:坂東玉三郎(大和屋)
通辞藤吉:中村福之助(成駒屋)
遊女亀遊:河合雪之丞
旦那駿河屋:片岡松之助(緑屋)
遣り手お咲:中村歌女之丞(成駒屋)
浪人客佐藤:中村吉之丞(播磨屋)
唐人口マリア:伊藤みどり
思誠塾小山:田口守
思誠塾岡田:喜多村緑郎
岩亀楼主人:中村鴈治郎(成駒屋)
片岡仁左衛門さんの休演のために、新たに用意された演目、昭和47年、文学座により初演、有吉佐和子さんが杉村春子さんのために当て書きした作品だそう、新派との共演が新鮮です。横浜の汽笛の音が印象的、初めて生で河合雪之丞さんを拝見しましたが、お美しい。影のある幽けき雰囲気も良い。玉三郎さんが終始素晴らしく、ここまで笑った演目は初めて、コメディエンヌとしての才能爆発、この短期間で、この台詞量も凄いなぁ。しかしこの早口な喋り方、杉村春子さんが演じられているのも同時に目に浮かぶ。前半1時間5分、後半1時間35分、とても眠い日で前半やや眠気に襲われ、長い後半心配でしたが後半の素晴らしい演技に覚醒しました。
遊女亀遊(前半に「唐人に体を売るなら死んだ方がまし」というような台詞もあったが)が、通辞藤吉と一緒になれない悲しみのため剃刀で首を切って自殺した後、鴈治郎さん演じる岩亀楼主人と、主にお園の共謀により嘘が膨らみ、床の間に「露をだに いとふ倭の 女郎花 ふるあめりかに 袖はぬらさじ」という亀遊の嘘の辞世の歌の掛け軸が掛けられた「列女亀勇自決の間」まで設えてしまう。「遊女亀遊の最後」の話は扇子をパンパン打ちながら講釈のような様子が楽しい。最後は大橋訥庵の門下生にこてんぱんにやられてしまい、恐怖で腰も抜けてしまいますが、激烈に懲りた様子は無いか。口から先に生まれたようなお園、愛する人のために死んだ遊女亀遊との比較もあり、酒で失敗することも多く、真剣に生きていないダメ人間な印象も受けますが、そこがとても人間らしくて愛おしい。お園の後ろ姿で始まり、お園の後ろ姿で終わるのも象徴的ですが、その受ける印象は全く異なります。
玉三郎さんの三味線の弾いたり、酒を飲んだり注いだり、ゆで卵を剥いたり、茶碗をチンと鳴らしたり、腰を抜かしてヘロヘロになったり、雨でずぶ濡れになったり(ここは題名と掛かっているのか)所作がいちいち美しく、お顔も美しい、それによりコミカルさがさらに際立ちます。唐人口マリア役の伊藤みどりさんの怪演も見事でした。チャンスがあればもう一度拝見したいほど素晴らしかった!
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