歌舞伎『孤高勇士嬢景清―日向嶋―』国立劇場 大劇場

『孤高勇士嬢景清―日向嶋―』国立劇場 大劇場
2週間ほど劇場に行かずにいると、禁断症状が出そうです。今回間違えて3階一番後ろの3等席中央付近をとってしまったのですが、とても見やすくて満足(花道も7割ほど見える)、コスパ最高でした!

配役
悪七兵衛景清:中村吉右衛門(播磨屋)
源頼朝/花菱屋長:中村歌六(播磨屋)
肝煎左治太夫:中村又五郎(播磨屋)
三保谷四郎国時:中村歌昇(播磨屋)
玉衣姫:中村米吉(播磨屋)
里人実は天野四郎:中村種之助(播磨屋)
里人実は土屋郡内:中村鷹之資(天王寺屋)
俊乗坊重源/花菱屋遣手おたつ:嵐橘三郎(岡嶋屋)
秩父庄司重忠:中村錦之助(播磨屋)
景清娘糸滝:中村雀右衛門(京屋)
花菱屋女房おくま:中村東蔵(加賀屋)

序幕「鎌倉大倉御所の場」、後半とはそれほど関係無い30分ほどの幕。頼朝役は歌六さん、町人やおおらかな武士役のイメージが強いのですが、威厳のあるお役も良いですね(あまり強そうには見えないが)。貫禄あります。この場の華は玉衣姫(たまぎぬひめ)役の米吉君です。周りは濃い〜益荒男野郎ばかり、秋色の裃の中で、ピンクの振袖まさに荒野に咲く一輪の花です。恋人の平知章(戦死)の残した法華経普門本の一巻を義兄の頼朝が見せてくれず、袂を掛軸に見立て、恋しさを嘆く姿は可憐です。もうちょっと重めで演技されていたら完全に泣いてました。頼朝家臣の秩父重忠は中村錦之助さん、誠実な二枚目役がはまっていました。最終的に頼朝の粋な計らいにより、それを須磨の寺に納める使命を受け出立。米吉君、ここでさよならは悲しい。思えばこの演目、唯一の清涼感だったね。頼朝の優しさと人間の大きさを見せる段。

二幕目「南都東大寺大仏供養の場」では、景清登場。吉右衛門さんはドラえもんのような法師姿で油断させようと登場しますが、異形過ぎてばればれです。「錣引(しころびき)」で有名なライバルの三保谷(みおのや)国時と対決するのですが、刀じゃなくて、相撲で勝負というのがのんびりしていて良いです。そして三保谷弱いです!歯ごたえなさ過ぎ竹輪麩三保谷と呼ばれても仕方なし。負け惜しみを言い颯爽と去っていきました!歌舞伎役者としての格の違いなのでしょうか。その後の人形を使った景清の強力を表現するのも面白い。吉右衛門さん、あんまり動けてないのですが、体が大きくて気力のあるせいか、迫力あります。流石。結局は頼朝にうまいこと説得され両眼を失う景清なのでした。

三幕目「手越宿花菱屋の場」は30分ほどのコミカルパート。遊郭花菱屋の優しい主人は歌六さん、頼朝からのこの役は切り替えが大変と想像されます。人使いの荒さが笑える女房おくま、「あのおかみさんを女房したとは、合点が行かぬわ」「蓼食う虫も好き好きとやら」という台詞があるのですが、本当に合点が行きません。二人の馴れ初めのスピンオフが作れそうです。そしてついに景清の娘糸滝が登場するのですが、年を尋ねられて「14歳」と答えるシーンでかなり笑いが。。。冗談じゃないんですよ!確かに糸滝役の雀右衛門さん御年63歳、これが日常だと考えたら引いちゃいますが。私も配役を見て「若い米吉君が、糸滝でいいのに(大人の事情は一旦置いておいて!)」と思いましたが、そうじゃやぁない!と思い直しました。中途半端に若い方が演じるよりはベテランが演じた方が意外や意外、しっくりきちゃうのが歌舞伎イリュージョン。年を取ると子供に近づくと言いますし。背も低く体型なんか14歳っぽいし。素晴らしいです。ただ楽しい段のはずなのですが、笑いの力はちょっと弱かったですね。寝かけました。。。

四幕目「日向嶋浜辺の場」、宮崎県日向に流れ着いた景清を娘の糸滝が尋ねてくる段。景清の感情の移り変わりが、激しくとても難しい役所との印象。一旦は糸滝の質問にしらばっくれる景清ですが、里人実は頼朝の目付役二人に事実を露見されます。中村種之助、鷹之資のコンビでしたが、清潔感があって素敵。どう見ても里人に見えない品の良さ。盲目だから関係無いか。この話も例にもれず能『景清』がベース、里人が景清を呼ぶところから、お能の雰囲気、藁小屋からの出、地譜風の「日向とは日に向こう、向かいたる名をば呼び給わで、力なく捨てし梓弓〜」もお能からのアレンジ。怒った振りをして糸滝を追い返してしまいますが、残された書置きで自分に合うために遊郭に身を売ってお金を作った事実を知り、取り乱す景清ー。この辺りもお上手。そして最終的に救うのはやはり頼朝、頼朝が主役ではないのかと錯覚してしまいます。景清の「親は子に迷わねど、子は親に迷うたな」の台詞がありますが、実は逆でした。最後は「日向灘海上の場」、糸滝とも一緒になれて一安心、雪解けはあっという間。浄瑠璃のみで台詞はなく、景清の主君のであった平重盛(小松殿)の位牌と梅の枝を海に流して幕。

大きな疑問だったのが、景清が首元に刺す紅梅の意味、最後に位牌と流す訳ですから何かしらの意味があると調べてみれば、まず梅の花言葉は「高潔」「忠実」「不屈の精神」など、重盛を捨て、頼朝に使える決心をしたということで理解できますが、この話が作られた1700年中頃に花言葉という概念はなかったと思うのですが、萌芽くらいはあったのかも。そしてこれに違いないと感じたのが飛梅伝説で有名な菅原道真の歌「東風ふかば にほいをこせよ 梅の花 あるじなしとて 春なわすれそ」、境遇はやや違いますが、同じく九州太宰府に左遷された道真に同情していたというのは大変しっくりきます。

もう1つは景清が持つ「痣丸(あざまる)」という変わった名の刀、現在「熱田神宮」が所有し、実際景清が使っていたという伝承もあるとか。名の由来は諸説ありますが「景清がこの刀を通して顔の痣を見るうちに痣そのものが消えたとする説」「刀自体の鎺付近にある黒い痣のような部分が摺り上げても消えなかったことによる説」など、興味深いです。

今回は休憩時間が3回有り一幕一幕も30/30/35/65分と短時間で見やすかったです。大岡政談とか米吉君とか落語の佐々木政談とか名奉行のお裁き物が好きなので景清が出て来ない一幕目が一番面白かったですが、吉右衛門さんの熟練の演技は見応えがあり楽しませていただきました。やっぱりエンタメ重視の『新版オグリ』などより、こういうゆったりした歌舞伎の方が自分には合ってる。来月の国立劇場歌舞伎は『近江源氏先陣館―盛綱陣屋』『蝙蝠の安さん』、チャップリンが大好きなので非常に楽しみです!

コメント

  1. […] 観賞 一.歌舞伎「孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)―日向嶋―」国立劇場 大劇場 二.浄瑠璃『新内と紅葉狩「瞼の母」新内仲三郎』伊豆・修善寺あさば 三.落語「落 […]

タイトルとURLをコピーしました