4月に中止となった特集企画の振替開催、ありがとう神保町シアター、で開催中の「生誕百年記念 映画女優・原節子――輝きは世紀を越えて」で映画『ふんどし医者』を拝見しました。稲垣浩監督の作品は『無法松の一生(三船敏郎版)』『待ち伏せ』しか拝見したことがありませんが、『待ち伏せ』は三船敏郎、石原裕次郎、勝新太郎、浅丘ルリ子と出演陣が凄いわりにあまり面白くなかった印象が。。。『ふんどし医者』の原節子さんの年齢は40歳前、1963年に引退されていますので、女優人生としては晩年の作品です。
配役
小山慶斎:森繁久彌
小山いく:原節子
池田明海:山村聡
半五郎:夏木陽介
お咲:江利チエミ
親分松右衛門:志村喬
最初は捲られる解体新書をバックにクレジット、続いて現代(といっても60年前)の大井川の橋を渡るJRの電車の映像になり、ハッとさせられるのは上手い演出。映画は100年ほど遡ります。1863年〜1871年、江戸から明治に変わる時代の静岡県島田の宿での物語。最初の台詞は原節子さんの「半でございます」、博打打ちの原さんも素敵だ。田舎住まいではありますが、通常イメージよりもお顔は細っそりされており、都会的なお美しさ(丸髷大きくない?)、清潔感を伴った妖艶さが有り、町娘っぽい感情型の駿河屋お咲役の江利チエミさんとの対比もグッド。俯いて顔がちょっと坂東玉三郎さんに似てるかも。江利チエミさんは、大きな口、ハスキーな声と笑顔が可愛く、美空ひばり、雪村いづみとともに「三人娘」と呼ばれた方、歌手で45歳で早逝、高倉健さんと結婚してたのか〜。そして脇を固める2人の男優山村聡さん、夏木陽介さん男前過ぎ!
一番の見所は250両(=200ダラー)の300倍マイクロスコープを買うために原さん演じる「いく」が自分の体を300両で掛ける場面でしょう。何回か博打シーンは出てくるのですが、負ける度に医者の夫小山慶斎は着物を剥ぎ取られて褌と襦袢姿になるのが「ふんどし医者」という渾名の由来。ここまで負けるシーンしか見ていない訳なので、此方も手に汗握ります。いざ勝負、「いく」も怖過ぎて出目が見られないのです。表情が、堪らんす。親分役は志村喬さん、ちょい役なんですが、本当良い味出してる。志村喬さんですから、どうしたって人情味がありそうで、ひょっとするとワザと負けたのかもしれません。「いく」の勝ちが分かった時は、私も安堵して涙が。ここで映画が終わっても良かったな。そしてもう金輪際博打は止めると言っていたのに、最後でまた打ってる「いく」、大丈夫か(妻が丁半しているのを見ながら酒を飲むのが好きな慶斎が勧めたらしいが)。
口は悪いが腕は良い医者の慶斎は、序盤の細かいことは気にしない度量が大きいイメージと違い、弟子に嫉妬してみたり、チフス騒動で逆恨みして自宅を破壊した島田宿の人に本気でブチ切れる(全然恐くないのが良い)など、徐々に普通の人間(子供?)らしく変化。そんなキャラでも、ちょっとイラつきましたが、憎めないのが森繁久彌さんの人得。ちなみに途中で出てきた労咳は肺結核のことだそう。
長崎で一緒に医術を学んでいた池田と江戸に戻る途中、大井川で川止めされている時に、ここに残って普通の人々を助けると誓った慶斎を見て、池田から慶斎に乗り換えた「いく」も凄いですが、これは2人の物語。演技が大根などと言われることもありますが、やっぱり上手いと感じます。ヤクザ者から慶斎に憧れて立派な医者になった半五郎の存在感がもう少しあると、さらに良い映画になった気がしますが、珍しく原節子さんの笑顔が沢山見られて、最後もハッピーエンド、とても幸せな気分になる映画でした。
コメント