渋谷実監督の映画を拝見するのは『バナナ』に続いて2作目、チラシの画像(上)からして、とにかく楽しいコメディかと想像したのですが、なかなか重みのある作品でした。ちなみに上のシーンは映画内にはありません!
配役
三雲八春:柳永二郎
三雲伍助:増田順二
湯川三千代:田村秋子
湯川春三:佐田啓二
津和野愁子:角梨枝子
加吉:鶴田浩二
お町:淡島千景
竹さん:中村伸郎
松木ポリス:十朱久雄
お京:長岡輝子
勇作:三國連太郎
豊子夫人:市川紅梅
瀧さん:岸惠子
ヤクザの女:望月優子
ヤクザの男:諸角啓二郎
先ほど拝見した『長屋紳士録』では飯田蝶子さんが爆走していましたが、この映画では柳永二郎さんが爆走。この時代の50代は滅茶苦茶元気だったのか?原作はお馴染み井伏鱒二です。本日休診の札を下げ温泉に出かけた院長と看護師たち。お手伝いのお京と2人で三雲医院の留守番をする老医師へ続々と診察の依頼が入りてんてこまい、という前半。
お京の息子勇作は戦争で頭がおかしくなった元中尉、役のせいもありますが、三國連太郎さんは抜群に二枚目で流石の存在感。「ファッショの遺物」など通行人に罵倒されるなど、戦後はきついきつい。逮捕され腹痛を偽るヤクザの女性が「日本一の婦人雑誌」と書かれた長襦袢を来ていたのも印象的でした。ローマ字のタイプで気持ちを伝えるシャイでヤンチャな佐田啓二さんも新鮮、イニシャルの「S.Y.」がでかでかと編み込まれた、多分お母さんの手作りセーター姿も可愛かったな。最後の山登りシーンでは、愁子がそのセーターを着ていたが、湯川と結婚すれば「S.Y.」で正解。中村伸郎は、管理職っぽい役しか拝見したことが無かったのですが、だらしない役も新鮮、だらしないけど愛嬌があって憎めません、「お祭り提灯みたいに、あっちでブラブラ、こっちでブラブラ」という例えが秀逸。
個人的には淡島千景さんのあっけらかんとした色気のあるユーモアたっぷりな人物が好きで、この映画でもそれを楽しみにしていたのでが、妊娠したり入院したり死にかけたり終始辛い役回りでしたが、時折見せる輝く笑顔と明るさに癒されます。
勇作が航空兵と勘違いした負傷した雁が、仲間と一緒にV字を組んで帰郷するシーンは素晴らしい。お町、伍助を除く主要人物全員で敬礼で見送りました。母が勇作の足にしがみつくのは辛くもありますが、希望を感じさせる美しいラストシーンは素敵。
列車住宅とか船で暮らす人とか、炭団用リアカーで病人を運んだり、汽車の前にわざと飛び出したり、線路を横断したり、危ないし問題はありますが、体験してない身として無責任に、こんな時代も良いなと思ってしまいます。人の優しさに溢れた昔の映画は大好きです。1月の企画は「没後40年嵐寛寿郎――伝説のスター“アラカン”の映画をめぐる冒険」、『鞍馬天狗 青銅鬼』とか『むッつり右門捕物帖 鬼面屋敷』とかすごい興味有る。神保町シアター、来年も素敵な映画上映を楽しみにしております。
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