『スーパー歌舞伎 ヤマトタケル』東劇

『スーパー歌舞伎 ヤマトタケル』東劇
2020年夏再演される「スーパー歌舞伎Ⅱ ヤマトタケル」の予習も含めシネマ歌舞伎で初鑑賞です。13台のカメラ、50本のマイクを使い立体的に劇空間を再現したということでしたが、実際にかなりの迫力が感じられました。最初は四代目市川猿之助、九代目市川中車の襲名披露口上から始まり。歌舞伎の口上は真面目な場合がほとんどでですが、猿之助さんを「師と仰ぎ、父と仰ぎ」とほんのり笑いを入れてくるのが中車さんらしいです。福山雅治さんの発案という3つの隈取りを重ねた緞帳もちらっと出ましたが、あれは痺れます!

配役
小碓命(おうすのみこと)後にヤマトタケル/大碓命(おおうすのみこと):市川猿之助
帝(すめらみこと):市川中車
タケヒコ:市川右團次
ワカタケル:市川團子
兄橘姫(えたちばなひめ)/みやず姫:市川笑也
弟橘姫(おとたちばなひめ):市川春猿
ヘタルベ:市川弘太郎
倭姫(やまとひめ):市川笑三郎
熊襲(くまそ)弟タケル/ヤイラム:市川猿弥
皇后(おおきさき)/姥神:市川門之助
熊襲(くまそ)兄タケル/山神:坂東彌十郎

第一幕は「大和の国 聖宮」の場からスタート。市川中車の帝は衣装など大変華美で迫力ありますが、歌舞伎初舞台ということで、緊張感と新鮮さ(ぎこちなさ)を感じます。帝は以外と出番少ないのですね。「大碓命の家」では瓜二つの小碓命、大碓命兄弟の早変わりがお見事!揉み合ううちに誤って兄を殺してしまいます。「元の聖宮」に戻り、兄殺しの罪として帝に九州の熊襲を平らげることを命令され出発、「明石の浜」では大碓命の妃の兄橘姫が仇を討とうと追ってきて、小碓命を短剣で誘うとするも、あっけなくかわされ、最終的には小碓命の誠実さと優しさに絆され、良い仲になってしまいます。大和から兵庫の明石までかなりの距離があり、追ってくる執念が凄いですが、感情変わるの早っ!お兄ちゃん女好きだし、クーデター計るしきっとそんなに好きじゃなかったのでしょうねー。続いて小碓命を大切に思う叔母倭姫が登場。帝に小碓命の無実を訴え伊勢行きを命じられてしまうのですが、市川笑三郎さん、包容力のあるキャラがとても素敵でした。「熊襲の国 タケルの新宮」では新宮完成のどんちゃん騒ぎをしている熊襲兄弟と仲間たち。タコや魚、エビ、カニがいっぱい付いた唯一無二のキラキラ衣装が凄いです。熊襲兄は女装した小碓命にあっけなく殺され、さらに「タケル」の名を与えることを告げ熊襲弟も絶命。それにより熊襲兄弟の力が小碓命に乗り移るそうです。猿弥さん恰幅良いですが、動きはキレがあり、フォルムに可愛げがあり実は良い人柄が出ています。最後の絶叫も良かった。この場での大量の樽を使った立ち回りは、役者さんに当たらないかドキドキしますし、舞台崩しは画面でみても迫力あります。実際はさぞ凄かったことと想像されます。

第二幕は熊襲を支配し戻った「大和の国 聖宮」から。休む暇もなく、蝦夷討伐を命じられ出立。「実際は死ねと言われているのと同じ」という台詞に、先日読んだ日本軍の特攻隊を想起させられ、辛くなりました。蝦夷に行く途中で叔母の倭姫のいる「伊勢の大宮」へ寄り、伊勢の神宝である「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ」を授けられます。斎宮である倭姫の台詞はヤマトタケルの今後を示唆しています。この場の笑三郎さんも巧いです!大人の余裕と色気、辛さを冗談で隠す感じが出ていて凄く良いです。間の取り方も絶妙で笑わせていただきました。ここで兄橘姫の妹の弟橘姫とも良い仲に。市川春猿=新派で活躍されている河合雪之丞さんということを後で知ったのですが、お顔もお声も女性にしか見えません。凄い。「焼津」ではタケルのお供のタケヒコ登場。市川右團次が出ると画面が締まる流石の風格。さらに弟橘姫もタケルを慕って追ってきて同行することに。駿河のヤイラム、ヤイレポ兄弟の策略で火攻めに合うのですが、火打石と天叢雲剣で反撃。火をイメージした立ち回りも面白い!右團次さんの旗振りもとても綺麗です。駿河の兄弟の「自然と共に静かに暮らしていたのに、大和国が鉄の武器と米を持ち込み、それを滅茶苦茶にした」というような台詞があるのですが、この辺から私はタケルより辺境の人々に同調し始めてしまいました(『もののけ姫』っぽいか)。。。「走水の海上」では海の神の怒りを買い、弟橘姫入水。「あんたといては太后にはなれないわ」というばればれの嘘がとても優しく、海に呑まれるお姿まで大変お綺麗でした!最後は「一番大切なもの」を失ったタケルの泣き笑い絶叫で幕。顔芸は家系なのかしらん。

第三幕は蝦夷を平定して戻る途中の「尾張の国造の家」から。国造に伊吹山に住む神を倒すように頼まれ、「素手でも余裕で倒せるゼ」と何を血迷ったか娘の「みやず姫」に大事な「草薙剣」を預けて出立します。「伊吹山」では山神と姥神の二神が活躍するのですが、姥神が「ばばぁ」に見えず笑えました。皇后と姥神を演じたのは市川門之助、性質の違うキャラの演じ分けはお見事。美しく着飾った皇后より、おどろおどろしい姥神の方が心が純粋というのも興味深い。熊襲兄と山神を演じた坂東彌十郎さんの素晴らしい存在感と大迫力、顔が平べったく隈取り入りの白い獅子神も可愛かった。伊吹山の神も死にます(最後は碇知盛みたいで格好良かった!)が、タケルも姥神の命をかけた雹攻め、さらに獅子に足を噛まれ重症を追い、足も三重に曲がっちゃいます(このエピソードが三重県の由来!)。人間だけがかかる「傲慢という大病」、本当恐ろしいです。「能煩野」でついにタケル絶命。最後のカシの葉の話は「命の 全けむ人は 畳薦(たたみこも) 平群(へぐり)の山の 熊白橿(くまかし)が葉を 髻華(うず)に挿せ その子」の歌に由来。盛大な葬儀が行われた後、タケルの墓のある「志貴の里」、ついに中車さんの息子市川團子演じるワカタケル登場、見た目が可愛すぎ!台詞なく終わるのかと思ったら、しっかり喋り、その台詞は大和の国と歌舞伎の国の未来が重なりフアンの涙を誘う(泣きませんでした)。タケルのお供で蝦夷出身のヘタルベの駄々っ子のような絶叫がちょっと煩わしいか。最後は白鳥に変わったタケルの宙乗りで終了。個人的には宙乗りはせず、しっとり終わってくれた方が好きかも。墓から聞こえる?能の地唄のような演出は良かったです。

日本書紀、古事記は両方読んでいたこともあり、それを思い出しながら見られました。10分の休憩2回挟み4時間の長さでしたが、動きも多くあっという間の面白さ!日本書紀などでは各エピソードは本当にたんたんと記載され人間っぽさなどなかったと思うのですが、舞台では人間の弱さや下衆な部分が存分に描かれ見ていて痛い。父に愛されたい一心の泣き虫ヤマトタケルは権力、富、嘘などに対抗する強いけど弱く、弱いけど強いキャラクター。最後は油断と傲慢さで命を落としますが、その弱さが強調されている故に共感を生むのかもしれません。ただキャラ変が激しいので付いていくのが大変。個人的には熊襲や駿河、伊吹山の神の方が愛すべきキャラでした。話の肉付けも素晴らしく、ストーリーも破綻なくまとまっており梅原猛さんの構成力と知識の深さに感服いたしました。古典をベースにしていますが、新たな古典となる物語です。最後のカーテンコールでは皆お役に入ったままの様子で不思議と感動してしまいました(最後に出てきたオーラが凄い爺ちゃんは猿翁さんでったんですね!)。

2020年夏の『スーパー歌舞伎II ヤマトタケル』は、360度回転型の劇場IHIステージアラウンド東京で上演されるそうで、どうなるか想像つかないですが、楽しみです!

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