令和3年5月文楽公演 第一部『心中宵庚申』国立劇場

令和3年5月文楽公演 第一部『心中宵庚申』国立劇場
公演再開した令和3年5月文楽公演 第一部『心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)』を拝見しました。近松門左衛門最後の心中物、初めて拝見する演目でしたが、文楽って、やっぱりいいですね。

配役
令和3年5月文楽公演 第一部『心中宵庚申』国立劇場
まずは「上田村の段」から、八百屋伊右衛門女房の独断で離縁されたお千代(頭は「ねむりの娘」っていうのか、面白い)が実家に帰ってくる場面。コロナの関係で、この段は主要人形遣いの方は出ず、黒衣集団によるもの。主役の半兵衛が切腹しようとする場面で黒衣9人が集まると迫力ありますね。語りは竹本千歳太夫さんでしたが、同じテンポで流すような印象。文楽は太夫、人形遣い、三味線のコンビネーションが重要です。平右衛門の「灰になっても帰るな!」の絶叫が凄まじい。

15分の休憩を挟んで「八百屋の段」、人形遣いが上手いと確実に舞台が締まります。人形の活きの良さが全然違うぞ。豊武呂勢太夫さんと鶴澤清治さんの黄金コンビ。床のすぐ脇の席だったのですが、清治さんの三味線は近距離で聞いていても素晴らしく心地よい。一度も引っ掛かる所が無い!名前も無い伊右衛門女房が嫌な奴なのですが、笑いの要素も大きい。吉田文司さんが遣っていましたが、NHK人形劇のような人間らしくないコミカルな動きも楽しい。離縁しないならオレが死ぬ、と言っていますが、死ぬ気ないっ!絶対!主人の伊右衛門は仏教にずっぽり、性格も穏やかなのですが、これは女房からの現実逃避か。どう考えても好き好んで結婚した訳ではないのでしょう。。。半兵衛、お千代の両親の望みを果たすために心中という選択をしてしまう2人が悲しい。

最後は「道行思ひの短夜」、生玉神社、東大寺大仏殿再建のための勧進所での心中までの場面を30分、太夫4人、三味線4挺でじっくりと。「名残の夏も薄衣、鶯の巣に育てられ、子で子にならぬ時鳥・・・」で始まる詞章が切な過ぎる。対比がえげつない若く楽しげなカップルが去った後、半兵衛お千代が頬被り姿で登場。遣うのは吉田玉男さん、桐竹勘十郎さん。半兵衛を語る豊竹希太夫さんもお声が歌舞伎俳優みたいで格好良い。もうやばいっす。心中の際、敷く毛氈の赤が鮮烈。お千代のお腹に5ヶ月の子供がいるという設定が効くな。お千代の喉を付き、殺した後、「いにしえを 捨てばや義理と 思うまじ 朽ちても消えぬ 名こそ惜しけれ」の辞世の句を二首したため、自分の背とお千代の胸へ。切腹から喉を掻き切り自害。最後の力を振り絞ってお千代を抱きしめる。こんだけ執拗に畳み掛けられたら駄目駄目。敢えなく涙腺崩壊いたしました。

伊右衛門女房の悪婆以外は、基本的に良い人なのですが、思いやりが仇となり二人を追い詰めるという、やり切れないお話です。その婆にしても想像するに調子乗りで、気が効かないと思われるお千代が気に入らないのも判らなくはないしな。そして半兵衛、22歳で養子に入ってから16年の間に5回も自殺しようとしていたらしい。武士は死にたがるものなのかしら。40歳前に死ぬきっかけを見つけようとしていたのかもしれません。

ちなみに干支の一つである庚申の年日は金気が天地に充満して、人の心が冷酷になりやすいという。ちなみに道教をから始まったとされる庚申信仰は、そういった考えと仏教や各地の風習が結びついた複雑なもの。題名の通り「申=猿」と「去る」が掛かっており、キーワードとなっています。それ以外にも全編にわたり言葉遊びが凄い。心中物で初めて泣かされました。門左衛門さん、参りました。

コメント

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