国立劇場で令和5年2月文楽公演、第三部『女殺油地獄』を拝見しました。
配役
与兵衛の小物感がよく出ている「徳庵堤の段」、すでに顔が、特に口元が小憎たらしい。「河内屋内の段」はさらに与兵衛の放蕩息子ぶりが炸裂、うさんくさい稲荷法印はよいとして、病気の妹に嘘を付かせるわ、妹、義父徳兵衛、母お沢を足蹴にしたり棒(おうこ)で殴りつけるわやりたい放題。幕間挟んで、やはり眼目は最後の「豊島屋油店の段」、徳兵衛とお沢の与兵衛に対する深い情愛にしんみりきているところに、与兵衛の殺人と、この浮き沈みの激しさが良い。お吉が樽に油を入れる間に、与兵衛が後ろから脇差で襲う、与兵衛とお吉の対決、逃げるお吉が油をぶちまけてからが本当に凄い!!いつもは6列目あたりで見るのですが、今日は1列目やや上手寄り、桐竹勘十郎さんの遣う与兵衛の恐怖と迫力!『霊験亀山鉾』の水右衛門のような真の悪党ではない与兵衛は、お吉を殺そうとしていることに自ら恐れおののいているのが伝わります。歌舞伎では不思議と笑いが起こることもある場面ですが、文楽は凄惨さと人形遣いの技量が際立ち、笑いは一切ありません。人間としてはあり得ない滑り振りなのですが、不自然さはない。体の震えとか足の動きとか本当やばい。現在、激しい動きにおいては勘十郎さんの右に出る方はいないでしょう。芯の強い女性、お吉を遣う吉田一輔さんも良かったし、豊竹呂太夫さん、鶴澤清介さんコンビのどっしり落ち着いた語りも素晴らしい。衝撃的過ぎて、幕が引かれた後もしばし茫然でした。。。
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