令和3年2月文楽公演 第一部『五条橋』『伽羅先代萩』国立劇場

令和3年2月文楽公演 第一部『五条橋』『伽羅先代萩』国立劇場
飯田橋のフレンチ「ソンブルイユ」でモーニングをいただいた後、一番楽しみにしていた文楽公演の第一部を拝見しました。

配役
令和3年2月文楽公演 第一部『五条橋』『伽羅先代萩』国立劇場
まずは能『橋弁慶』をベースとした『五条橋』から。20分程度と短いですが、人形でしか表現できない演出が多く、文楽らしさ満点の演目です。女性と見間違う美しさの牛若丸は超人的な強さ、蛇の目傘をクルクル回して翻弄、弁慶の薙刀の上にヒラリと乗ると、どういう仕組みか怪力の弁慶でも薙刀を動かすことができない。橋の欄干の片足立ちも優雅で余裕たっぷり。最後は扇で軽く薙刀を撃ち落とされて降参。家来にして可愛がって下さいと、体を小さくしてお願いする弁慶が可愛い。牛若丸役の咲寿太夫さん、弁慶役の津國太夫さんという配役もばっちりでした。

続いては歌舞伎でもお馴染みの『伽羅先代萩』、こちらは休憩無しの2時間ほどと長い演目ですが、全体として漂う緊張感にこちらの集中力もいや増します。まずは「竹の間の段」から。この段は歌舞伎では2015年9月を最後にかかっておらず初見。政岡を嵌めようとする八汐に対し、七歳の鶴喜代君が必死に抵抗するのが楽しい。乳母政岡を使う吉田和生さんが素晴らしい!わざとなのかもしれないが、やや振りが大きい八汐と比べ、動きが少ないのですが、ものっ凄く自然。「飯炊きの場面」なんかも最高です。

続いて「御殿の場」、前半は豊竹呂勢太夫さん、鶴澤清治さんの最高のコンビ。清治さんの一撥目ですでにウルっときてしまいました。これは泣く。歌舞伎で見るとこの場面が賞賛される理由がわからなかったのですが、文楽を見るとよくわかります。政岡、息子千松、鶴喜代の3人しか出ないのですが、皆よく泣き、子供2人の健気さ最高潮。この中で千松と政岡が歌う歌は手毬歌や童歌として各地に様々なバリエーションがあるという。

うちの裏のちさの木に すずめが三羽とまって 一羽のすずめの言うことにゃ むしろ三枚ござ三枚 あわせて六枚 敷き詰めて よんべよんだ花嫁に 金襴緞子を縫わしたら 襟とおくみをようつけんで となりのばばさんに笑われて 門に出てはしくしくと 裏へ出てはしくしくと 何が悲して泣きなさる 何も悲しはないけれど わしの弟の千松が 七つ八つから金山へ 金が出るやら出ないやら(後略)

政岡にご飯はまだかとせがみ、もっと声を張り上げて歌いないさいと怒られて泣く千松、「何が不足でお泣きやるぞ」の唱歌に政岡もこっそり涙、十分に頑張っている実子に優しくできない心情はいかばかりか。さらに鶴喜代の「そちたち二人が食べぬ内はいつもでも堪えている・・・」の台詞。この辺りの畳み掛けは凄くて、情感豊かな語りと三味線に涙腺ノックアウト。歌舞伎だとこんなにじっくり演じていては間が保たないでしょう。雀の親子と狆(子犬)もなかなか良い働き。後半、毒入り菓子持参の栄御膳が登場してからは、テンポが一気に変わります。錣太夫さんの寛容で優しいお声が女性ばかりのこの演目に合っている。超早口でリズムの良い語りも素敵。八汐のふてぶてしさと残虐性はこの段で極まれり、鶴喜代の身代わりとなった千松を刺し殺す場面は残忍過ぎて目も当てられないほど。この辺りも人形ならではの迫真。胸が痛いが、後ろの客(男性60歳程)がへらへら笑っており腹が立つ。よく笑えるなぁ。下手の沖の井は動揺を見せるものの、上手の政岡は一切動揺涙も見せず、この対比もグッド。政岡の千松に対する賞賛はしっとりというより、感情が激しく炸裂。最後は政岡と千松、一緒に八汐に止めをさし、目出度しとは言えないものの、鶴喜代を肩に乗せ華やかな幕切れでした。

「御殿の場」は本当良かった!!名作と言われる理由も納得、すでにもう1回見たい。5月の文楽は『心中宵庚申』『生写朝顔話』『摂州合邦辻』『契情倭荘子』、見たことのない演目が多いので非常に楽しみです!

国立劇場の紅白梅は今が見頃。梅の淑やかで気品のある香りにも癒されました。
紅梅「小田紅(おでべに)」 白梅「貴山白(きざんはく)」
1996年の開場30周年記念公演、文楽『菅原伝授手習鑑』の上演に当たり、太宰府天満宮から寄贈された梅で、紅梅「小田紅(おでべに)」、白梅「貴山白(きざんはく)」という品種です。

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