日本橋劇場で「柳家さん喬 二夜連続独演会 あわせ鏡(上)~新作部屋~」を拝見しました。さん喬師匠の新作落語を聞いたことがないのでとても楽しみ。
「恋の夢」柳家さん喬
いきなり流れる韓国語のラブソング、続いて「本気の恋の経験はありませんか?君が好きだ!好きだ!」という、さん喬師匠自身による謎めいたアナウンスが終わると緞帳が上がり、座付きでマクラ一切なく落語に突入。寝ぼけて「きみが好きだ」と呟く八五郎、女房に寝ているところを起こされるのは天狗裁きっぽいですが、全然違います。「きみ」を卵の「黄身」と勘違いする女房とのやりとりがあり、大家に燕の巣を取ってくれるように頼まれる八五郎ですが、仲良しの男女の子供、喧嘩して仲直りするカップル、手を繋いだ老夫婦(実は拾った50銭を奪いあっている)を見るたびに「恋の夢」の中で恍惚として表情を浮かべる八五郎。下げは「君が好きだーっ!」、ちょっと闇を感じるシュール落語。
「はち巻地蔵」柳家さん喬
毎月24日は、地蔵の縁日。波乗り地蔵、おしろい地蔵、とげぬき地蔵など色んなお地蔵様がいらっしゃるというマクラから。落語はとある場所に安置されている、札かけ地蔵とはち巻地蔵(元水かけ地蔵)の会話形式で進みます。お願いをしにやってくるのは、潰れそうな八百屋、喧嘩中の熊とお虎、未亡人に恋している豆腐屋のやすさん。その後にやってきたのは女房を無くして自暴自棄の八五郎。お供えの良い酒を勝手に飲もうとしてはち巻地蔵に懲らしめられ商売繁盛、夫婦円満、良縁成就の3つを代理で叶えることに。地蔵のはち巻のパワーもあり、見事成功。下げは「はち巻やるんじゃなかった、明日からまた、水をかけられる」、札付き地蔵と名前を間違えられる札かけ地蔵の哀愁が良い。時間は50分ほど、今日の一番の大作。
「らくだの馬」柳家さん喬
若い人たちの言葉遣い「やばい」を使いすぎでやばいというマクラから。九太郎時代の花緑さんに「松竹梅」を教えた時に、どうしても婚礼を結婚式と言ってしまう九ちゃん、言葉遣いに厳しい小さん師匠に相談すると、「細かいこと気にすんな!」と言われた話に爆笑。落語は伊勢屋に婚礼の仲人を頼まれ、大家に相談にやって来た八五郎、高砂を練習する様子は「高砂や」そのままですが、八五郎自身が豆腐屋、商いに出ていると八百屋、魚屋共々、男に騙されて、豆腐2丁12文、葱1本4文、ふぐ1尾2分を盗まれてしまう。その後は予想通りの展開に。「青菜」「寝床」の落語も混じった楽しい演目、最後はかっぽれで退場するさん喬師匠が可愛い。
「こわいろや(声色や)」柳家さん喬
中央大学で演劇や落語を研究されている黒田絵美子教授の作品だそう。2代目柳亭春楽という「こわいろ」を得意とするいろものさんの話。初代中村吉右衛門、2代目實川延若などの亡くなった歌舞伎役者の声色専門なのが面白い。「声色屋」という浮き草稼業の徳、前半は『浜松屋』での弁天小僧菊之助の名台詞、一瞬ですが『傾城阿波鳴門』、「九尺二間に 過ぎたるものは 紅のついたる 火吹き竹」と色っぽい都々逸へ。歌舞伎文楽好きには嬉しい流れ。実は両思いの徳と幼馴染みの、おきみですが、親は徳の稼業が不安で付き合うのをゆるさない。そこへ兄貴分の炭屋の竹がやってきて、実はおきみが好きなのだが、恥ずかしくて告白できないので、代わりに告白してくれと頼まれる。友達の代わりに、自分の愛する人に告白する状況は『シラノ・ド・ベルジュラック』を連想しますが、シラノと徳では立場は違う。最後は与太郎的な五郎の活躍もありめでたしめでたし。下げは「苦労してると言いてぇのかい?」「いいや、すみに置けねぇや」、1人で全てを演じる落語の特色を生かした設定が素晴らしい。出てくる人が皆んな優しい、さん喬師匠にぴったりの演目、今日一番印象的でした。
新作も全て時代は江戸で古典落語のような雰囲気たっぷり。会の趣向や演目について一切触れないのも格好良かった〜。「こわいろや」以外、グーグルで検索しても情報が無いのですが、まさかネタ下ろしではなないでしょうね。古典の方がグッときますが、たまにはこういう会も素敵ですね。
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