浅草公会堂で開催された中村芝のぶさん、市川笑野さんの自主公演「第二回梅笑会」を拝見しました。自宅にネット環境もテレビも無く情報源が少ない中、東銀座の素敵な居酒屋「しのだ家」でチラシを見つけたのがきっかけでした。これも縁でございますね。中村芝のぶさんは『風の谷のナウシカ』でも素晴らしい演技をされていたのでとても楽しみ。今日は2階席、浅草公会堂は舞台との距離も近く、花道の眺めもよく見やすいです。
一本目は能楽の『式三番叟』の小粋なアレンジの三人舞、清元 『四季三葉草』です。
配役
翁:中村芝のぶ(成駒屋)
千歳:市川笑野(澤瀉屋)
三番叟:尾上右近(音羽屋)
とうとうたらり たらりらたらりあがり ららりとう
ところ千代まで変わらぬ色の みどりたつ春 松の花 曾我菊の名も翁草 そよやいづくの 花の滝 れいれいとおちて 水の月 素枹の袖も千歳の 梅が香慕ふ鶯も 初音ゆかしき我が宿の 竹も直ぐなるひと節に うつして四季の三葉草
立ち舞ふ姿いと栄えて 桃は初心に柳はませた 風のもつれに解けかかる こちゃ海棠つぼみのままよ うら山吹に若楓 藤色衣ぬしとても かざす袂の桜狩 その盃の数よりも
おおさえおおさえ 喜びありや喜びありや 幸ひ心にまかせたり 千早振る 神の昔にあらなくに 卯の花垣根白浪の 渚の砂 さくさくとして 朝の花の富貴草
女子心は芍薬に 思うたばかり姫百合の まだ葉桜も染めぬのに そりゃあんまりな梨の花 気も石竹に軒の妻 菖蒲も知らで折添へて いつか手活の床の花 元の座敷へおもおもと お直り候へ ようがましや
さはらば一枝まいらしょう そなたこそ 君が由縁の色見草 うつろふ水に杜若 池のみぎわに鶴亀の 縁し嬉しき踊り花 女郎花 宵の約束小萩がもとで 尾花招けば絲薄 通ふ心の百夜草 こちゃこちゃ真実いとしらし そうじゃいな しほらしや
時雨の紅葉寒菊や 水仙清き枇杷の花 花の吹雪のさらさらさっと 山茶花や 恵みに花のいさをしは 千代に八千代の玉椿 眺め尽きせぬ花の時 今も栄えて清元の 治まる家とぞ祝しける
花尽くしのとても綺麗な詞章です。松の花の春から始まり、芍薬から夏、女郎花から秋、寒菊から冬と春夏秋冬季節が移り変わります。長めの春は前半と後半で違うリズム、「おおさえおおさえ」からは右近君の舞台、ルフィと同じ人とは思えない男振りに動きに集中できません。太い眉が凛々しい!ちょっと動きが固いような気もしましたが、力強い舞。途中で艶っぽい部分有り、鈴を使う部分有り、「女郎花」からは、少し揃ってなかったけれど優雅な三人舞で幕。お三方の個性の違いも良くわかり、今日の演目の中では一番。
二本目は鼓舞 『タケミナカタ』です。諏訪大社の祭神を題材にした舞で、笑野さんも歌舞伎の世界に入るまで所属していたという岡谷太鼓保存会との共演。タケミナカタは風、狩猟、農耕の神で大国主の第二子だそう。
配役
巫女後にタケミナカタ:市川笑野
諏訪明神の使い:尾上右近
口上は右近君、後で役名見たら諏訪明神の使いだったのね。何十台もの和太鼓と奏者は並ぶだけでも勇壮、中央の巨大太鼓が格好良い。足の下から感じる振動が気持ち良し。まずは巫女舞、市川笑野さんと認識して拝見するのは初めてでしたが、和太鼓とも違和感なく調和で気持ちよさそうな舞は、見ているこちらも心地よい。最後の方はチャンパ(摺り鉦)も加わりノリノリな感じ。歌舞伎鑑賞歴が長い訳ではないですが「澤瀉屋らしいな〜」なんて見ていて感じました。ふわふわ浮かぶ兜を追いかけて花道から引っ込み。その後の4人の拍子木演奏がとても楽しい。拍子木でちゃんと演奏しいてるのは初めて見ました。素晴らしい。続いて木遣り衆による掛け合い、高い声なのは遠くまで届くようにでしょうか。のんびりした感じ、神楽っぽくて(神楽です)好きだわ。「奥山の大木 里に下りて神となる〜」「皆様ご無事で お目出度い〜」「恋に焦がれし 花の都へ 曳きつけ 山の神これまで 御苦労だ もとのやしろへ 返社なせ〜」とか聞き取れないまでも心が温かくなるリズム。その後、連獅子の親獅子のような装束で再登場。太鼓の演奏は流石にお上手。摺り足や毛振りはちょっと見ていて辛いものがありましたが、女方の役者さんだしなかなか難しいのかもしれません。全体的には素晴らしい一幕でした。
三本目はお馴染み 『本朝廿四孝 奥庭狐火の段』です。数年前初めて見た文楽が大阪の国立文楽劇場の 『本朝廿四孝』で思い出深い演目。その時の八重垣姫は桐竹勘十郎さん、狐使わせたら日本一ではないでしょうか。歌舞伎で拝見するのは初めてです。八重垣姫は上杉(長尾)謙信の娘で、武田信玄の長男の勝頼の許婚、奥庭に祀られている兜は武田家の家宝で、信玄が信仰していた諏訪明神の神力が宿っています。 『タケミナカタ』と諏訪明神繋がりということもあり、芝のぶさんが選んだ演目でしょうか。
配役
八重垣姫:中村芝のぶ
人形遣い:尾上右近
最初に人形遣いの右近君が白狐を操って登場。狐も格好良いですが、右近君が格好良過ぎます。初めに文楽を見てしまったばかりに、歌舞伎の演出は物足りない。スピリチュアルな演出は文楽の方が親和性のある気がします。そして歌舞伎は基本的には団体芸だと感じる。1人であの広い舞台で、長い話の抜粋で、舞でなく演技をする難しさ(竹本の技量もあるか)。ばたついてた感は仕様がないとして、人形っぽい動きも見られるのですが、見ていて安心できないものが。八重垣姫は難しい。「翔が欲しい 羽が欲しい 飛んで行きたい 知らせたい 逢ひたい 見たい」の慟哭も、切ない。。。姫っぽさをもう少し下さい。とにかく青天井な難易度と感じる舞台でした。演じきったことが素晴らしく、中村芝のぶさんの美しさは見応えありました。今後も応援させていただきます!!
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