『バナナ(1960年 監督:渋谷実)』国立映画アーカイブ

国立映画アーカイブの特集「逝ける映画人を偲んで2017-2018」にて、岡田茉莉子さんお目当てで拝見。原作は1959年に読売新聞に掲載された獅子文六の同名小説。監督は渋谷実という方、恥ずかしながら初めて知ったのですが、小津安二郎、木下恵介とともに三大巨匠と呼ばれた凄い監督で、川島雄三などにも大きな影響を与えたそう。

まずは主題歌「バナナの唄」とタイトルバックがいい!「バナナの唄」の作詞は谷川俊太郎、歌は朝丘雪路と高島忠夫のデュエット、映画では1番だけですが、フルバージョンだとバナナの叩き売りの口上も入る(YouTubeで聞けます)。呑気なメロディと剽軽な歌詞が映画にぴったり。黄色地に黒の洗練されたタイトルバックも気が利いていますね。最初の方の歌詞は以下。

(女)あたしの好っきなバッナーナー♪(男)ぼっくの好っきなバッナーナー♪
(女)あっちでもモグモグ(男)こっちでもモグモグ
(女)バナナの皮にすーべって(男)総理大臣がすってんころりん♪

あー変な歌。だが、単純なメロディが脳内無限ループ!

ヒロイン島村サキ子を演じるのは岡田茉莉子、小津安二郎監督の『秋日和』でもそうでしたが、勝気でおきゃんなチャッキリ娘を演じさせれば右に出る女優はいないのでは。くるくる変わる表情やキレのあるちょっと不自然な動作など大変チャーミングでおじさん達はメロメロ、こんな娘さんに翻弄されてみたいわ。一挙手一投足が見逃せません!シャンソン歌手、紫シマ子として歌った「青ブクの唄」も最高!壁や車はもちろん煙突にまでびっしりポスターを貼って宣伝した甲斐もあり大盛況。左足を椅子に乗せ、無表情でギターをかきならし唄う姿は愛嬌たっぷり鼻血もの。その後のバナナの花輪、バナ輪?をひっかけられるシーンも面白い。「おやじ」「あんたなんかキューよ」「交渉決裂デイッ!」「バーイ(流し目)」など茉莉子節も炸裂です。

サキ子の父役は宮口精二、『七人の侍』でクールな久蔵を演じていた方でしたが、コメディでもいい味出してますね。主役は在日華僑総社の会長「呉天童」の一人息子でサキ子の彼氏の竜馬、目がクリックリの坊主頭で高校球児のような津川雅彦さんピチピチです。

この映画で要となっているのは竜馬の父「呉天童」役の尾上松緑、母「呉紀伊子」役の杉村春子でしょう。杉村は若いシャンソン歌手の永島栄二とアバンチュールに落ちかけるという役ということもあり、妙に色気たっぷり。この雰囲気の杉村さんは初めて拝見するかも。今更言うまでもないですが最高に巧いです。現在の松緑(四代目)の祖父である二代目尾上松緑も素晴らしい。料理上手の食いしん坊で、あのずんぐりした可愛いフォルムを生かした頼りなさそうな雰囲気なのですが、実は愛と優しさに溢れる寛容でクレバーなパパ。浮気をしかけた紀伊子に向けた「小さな秘密を持つのも愛を深くすること」という台詞はグッときました。最後のサキ子と坂を下るシーンでバックに見える東京タワーもいいねっ。

テンポも良く、時間も90分と短いのもグッドです。獅子文六らしいギャグや変な間、女性的な喫茶店マスター役の伊藤雄之助さん(嶋田久作にそっくり!)、カンフーでテーブルを真っ二つにするなど暴れまくる津川雅彦もなかなか面白く、なによりチャーミングな岡田茉莉子さんも大堪能。他の役者さんたちも魅力的で「前近代的」な私も十分楽しめる映画でございました。

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