近松門左衛門が手がけた浄瑠璃の最高傑作との誉が高い作品だそうですが、初めて知りました。。。まだまだ素人なもので。享保5年(1720年)に起きた、紙屋治兵衛と遊女 紀伊国屋小春の心中事件が元ネタとなっております。
配役表
主な登場人物は4人で「紙屋治兵衛」、治兵衛と早三年のっぴきならない関係にある遊女「紀伊国屋小春」、治兵衛と小春の駆け落ちを何とか阻止しようとする治兵衛の兄「粉屋孫右衛門」、治兵衛の女房「おさん」。「北新地河庄の段」「天満紙屋内の段」「大和屋の段」「道行名残の橋づくし」の4段構成となっていますが、90分と一番長い最初の段が抑揚もあり一番楽しめました。
「北新地河庄の段」
登場人物の個性がよくわかり見応えのある段。「娼が情けの底深き、これかや恋の大海を、かへも干されぬ蜆川、思い思いの思い歌。」と寂しい雰囲気、小春の出で始まります。ちなみにこのお話でよく登場する蜆川は曽根崎川の別名。北新地の茶屋河庄で客を待つ小春、そこに小春に横恋慕する太兵衛と仲間の善六が現れます。毛虫客と嫌われるこの2人が出てくると場が和む。2人で即興浄瑠璃で小春を腐す「口三味線」のくだりがあるのですが、三味線の調子を合わせる楽しい場面、2人のとぼけたやり取りも見所なのですが、それにドン引きする小春の表情に爆笑してしまいました。小春を使う人間国宝の吉田和生さんの動かない演技、素晴らしいです。その後、武士の振りをし、客として孫右衛門が登場。この後の小春と孫右衛門の駆け引きは見応えあります。そこへ「とぼとぼうかうか」と治兵衛が現れ、小春が孫右衛門に「本当は心中」したくないと打ち明けるのを立ち聞きしてしまい逆上。泣き虫治兵衛は頼りないダメ男という印象、小春に罵詈雑言を浴びせ、手まで出てしまうのが感情的で女々しいが、これが後々効いてくる。治兵衛女房おさんの頼みで心中を止まった小春の思いを知った孫右衛門の豪快な泣き笑いが素晴らしい!場にいない女房おさん含めた4人の感情交錯が見事で、涙腺崩壊しかけました。今年5月の「妹背山婦女庭訓 妹山背山の段」もそうでしたが、豊竹呂勢太夫さん、鶴澤清治さんのコンビ最高です!
「天満紙屋内の段」
歌舞伎では改作され「時雨の炬燵」と呼ばれている段。炬燵でふてくされる治兵衛のメソメソ感はこの段で振り切っています。小春の死を感じ取った女房おさんが治兵衛に小春の身請けを進めるという、まさかまさかの大胆な展開なのですが、ちょっと寝てしまいました。
「大和屋の段」
茶屋大和屋から小春と治兵衛が心中するためにこっそり抜け出すサスペンスな段。語りは人間国宝の豊竹咲大夫さん、微妙に聞き取りずらいのですが、眠気が吹っ飛ぶ語り口は素晴らしい。治兵衛がなかなか開かない大和屋の車戸から小春を連れ出すシーンは緊迫感有り、人形の動作に合わせた三味線も素晴らしい。音楽と役者の動きの軽妙さは黒澤監督の時代劇を思い出しました。太夫泣かせの難所という小春の合図のしはぶき(咳)「エヘンエヘン」から火の用心の番太郎の流れ良い味出してます。
「道行名残の橋づくし」
「走り書き、謡の本は近衛流。野郎帽子は若紫・・・」の語りで始まります。短い段ですが、舞台背景が3回変わり、段々死に近づいていると思うとなかなか。橋を絡めた台詞と2人に尽くしてくれた優しい女房おさんへの悔恨。「南無三宝、長き夜も夫婦が命短夜」「泣き顔残すな」「残さじ」最後の2人の心中はしんみり終わるのではなく、三味線もややコミカルでテンポの良い演奏で、思い切りよく終わるのは後味を考えてのことでしょうか。
私には女性(狐)のイメージが強い桐竹勘十郎さんが治兵衛を使っていたのも新鮮でした。キレのある激しい動きが得意なのかしら。日本伝統芸能の中で最も感情移入しやすいのが人形浄瑠璃、不自然な事象を、ごく自然に表現できるのはアニメーションに近い感覚。美しい掛言葉や節回しはヒップホップのライムやフロウなどにも通ずるところがあるでしょうか。ドラゴンボールとかでスーパー文楽やってくれませんかね。こういった素晴らしい日本の伝統芸能を拝見すると本当日本人に生まれてよかったと思います。12月の『一谷嫩軍記』も楽しみでございます。
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